「ち、ちょっと待ってよ。何でそんな話になってるわけ?私全然知らないわよ!」

「まぁ、先にお前に話してなかったのは、一応悪いとは思ってる」

 一応自分たちはそういう間柄だとは思っている。だが今回、いきなりこんな展開になるとは、彼女も全く思ってなかった。

「それに、これはあくまで両一族の取り決めであって、いきなり今すぐって訳じゃないから」

「そ、それはそうなんだろうけど......でも椋毘登、前にいってたわよね?それは私が他に、相手が見つからなかった場合とか何とかって」

「あ、あのな稚沙。冷静に考えてみろよ?それだと俺がずっとお前のことを待たないといけなくなるんだぞ、そんなの俺の方が待ってられるか!」

(な、何よ、自分からいってきたくせに)

 稚沙は少しグズっとしながら椋毘登を見る。元々は彼が自身で蒔いた種である。こちらもそう簡単に納得出来るものでもない。

 そんな様子の彼女を見て、彼もいよいよ腹を決めることにした。

「良いか、稚沙。俺は妻を娶るなら、お前以外は考えられない」

「それは何でなの?」

 稚沙はまだ少しグズリながら、尚も彼に詰め寄っていく。それぐらい今の彼女にとって、ここの部分はとても重要だ。

「そ、それはな。俺が本当に好きなのは稚沙だけなんだ。それぐらいお前のことが大事なんだよ!」

(え、椋毘登が今私のことを好きっていったの?)

「く、椋毘登の口から好きだなんて言葉、私初めて聞いたわ」

「俺は普段、そういう事をさらっと言える性格じゃない......でも、今回は本気だよ。だからどうか俺の妻になってくれ!」

 それを聞いた瞬間に、稚沙の目から大粒の涙が溢れた。まさか彼からこんな言葉を聞けるとは、これまで全く想像もしていなかった。

 それから稚沙は感極まって、思いっきり椋毘登に抱きつく。そして彼の胸の中で、大泣きしながらいった。

「椋毘登は、ちょっと口が悪いし、意地悪な所もあるけど、それでも私は〜」

「おい、稚沙!何か妙に引っ掛かることいってないか!!」

「椋毘登が1番大好きだから、椋毘登以外の人なんて絶対に嫌なの!」

「それを聞いて安心した。まさかこの場で振られでもしたらどうしようかと思ったよ。稚沙相手に、強制するようなことはしたくなかったし」

「あ、当たり前でしょう。これだけ日頃から、愛情表現して頑張って......」

 だがその瞬間に、彼女の口は椋毘登の唇にふわっと塞がれた。そして彼が中々離れようとしないので、彼女は大人しく、しばらくの間彼に身を任せることにした。

 そしてようやく彼の口が離れると、両手でそっと彼女の顔を優しく包んだ。

「良いか、稚沙。俺は諦めが悪いから、もう絶対に手放すなんてことはしない。それだけは覚悟しておけ。俺は一族の幸せじゃなく、お前を選んだんだから」

「椋毘登〜本当にあなたって人は〜」

 稚沙はそれ以上は何もいえず、ただ「うんうん」と頷くだけであった。