その一方で、斑鳩寺の仏像造り破損を企んでいた中臣の者たちは、その計画が失敗してしまい、いつ自分達が罰せられるかとビクビクしていた。

 そして彼らはある日、人の目を避けるために古びた小屋の中にひっそりと集まって、ヒソヒソと話し合いを行っていた。

「おい、どうしてこんなことになったんだ。捕まった男達に、我々のことが話されてしまえば、もう完全におしまいだ!」

「とにかく、ここはもう遠くに逃げるほかない」

「そうだな、可多能祜(かたのこ)様達にもこの件は伝わってるかもしれない」

「であれば、やはり早く逃げなれば...」

「ふーん、誰が逃げるだって?」

 男達はその声を聞いて思わずぞっとした。そして慌てて後ろを振り向く。すると小屋の入り口に、1人の少年が立っており、彼らを少し愉快そうにして見ていた。

「これは御食子(みけこ)様、ど、どうしてここに?」

 その場に突然現れた中臣御食子(なかとみのみけこ)は、そのまま部屋の中に入ってくると、彼らの前で足を止める。彼はとくに怒ってる風でもなく、何を思って愉快そうな表情をしているのか、男たちにも全く読み取れない。

「やれやれ、上手くやれば見逃すこともできたんだけど。でもどうやら失敗だったみたいだね。なら、君達はもう終わりだ」

「み、御食子様、我々は中臣の為を思ってやったことでして...」

「とにかく、この後は俺が引き継ぐ。だから君たちは何の心配もいらないよ」

「ひ、引き継ぐとは?」

「......おい、こいつらをこのまま始末しろ」

 中臣御食子が突然そう話すと、彼の後ろから刀をもった男達が、ぞろぞろと中に入ってきた。

「お、お願いです。今回は見逃してください!」

「うるさい。お前達は中臣に泥を塗るようなことをしでかしたんだ。蘇我氏への復讐は俺がやるから、安心して死んでいけ」

 彼はその男達に背中を向けると「じゃあ、あとは任せたよ」と軽く手を振りながら話すと、その場から外にさっさと出ていった。その場に残された男たちは、一瞬で、もの凄い恐怖と絶望に陥いる。

 そして御食子が小屋の外に出ると、彼の背中からは、先ほどの男達の物凄い悲鳴と叫び声が響いてくる。

(だが、蘇我への復讐をするのはまだ早い。もし俺の代で無理なら、俺の子や孫の代で、必ず成し遂げてみせるさ)

 彼はそういってから酷く不気味な笑い声を発した。蘇我一族への復讐、これこそが彼の最大の関心ごとであった。