(まさか、椋毘登がこんなに境部摩理勢に反抗的になるなんて......)
稚沙もこれは意外に感じて、思わず驚きの声を呑んだ。いくら同族とはいえ、彼は相手に明らかな敵対心を見せている。
「まぁ、そう思うならそれで良い。せいぜい私の悪義を暴くことだな」
「えぇ、犯人が誰であろうと、俺は絶対に容赦しない!」
椋毘登は彼にそういい返した。まるで今にも一発触発するかのような様子で、相手に厳しい目を向けている。
だが境部摩理勢の方は、ひどく愉快そうにしながら、そんな椋毘登の敵意を簡単に受け流した。
「では厩戸皇子の元に挨拶に行ってくるとするか。じゃあな椋毘登、くれぐれも失態をするんじゃないぞ」
境部摩理勢はそれだけ彼にいって、あっさりとその場を離れていった。そんな彼の行動は、まるで甥の椋毘登など全然取るに足らない相手だといっているようなものだった。
「くそ、摩理勢め!お前が犯人だった時は、俺がお前を倒してやる!!」
椋毘登はそういって、稚沙の手を握っていない方の手で、拳をぎゅっと握りしめた。彼の表情からは明らかに怒りの感情が込み上がってきている。
稚沙はそんな椋毘登をそばで見つめ、何ともやるせない思いになった。彼女も彼が本心でこんなことをいう人間じゃないのは分かっている。
(椋毘登は一族を守るために、こんなにも頑張ってるのに......)
稚沙は思わず椋毘登を前から抱きしめる。そして何とか彼の心を解きほぐそうと、愛しさをつのらせていった。
「大丈夫よ、椋毘登。きっと全てが上手く収まるようになるから」
それから椋毘登は何も発することなく、稚沙に体を預けた状態で、少しの間無言を続けた。
そして暫くしてだいぶ気分が落ち着いたのか、ふと彼女に顔を向けた。
「ありがとう、稚沙。俺も出来れば誰も傷つけたくはないんだ。だから今はやれるだけのことをしていくよ」
「うん、椋毘登。その意気よ!」
稚沙は笑ってそう答える。そして少し体を離してから彼の両手を握っていった。
「それと、もし本当にこの件で馬子様達が責任を取らされて、椋毘登の立場も危なくなるなら、その時はうちに来たら良いのよ!」
「はあ?お前のとこって。ま、まさか額田部に??」
「そう。うちも一応豪族ではあるけど、政には余り関わらないから、危険性は少ないと思うの」
「まぁ、馬飼部だもんな......それはつまり俺に馬の飼育にたずされと?」
「もちろん、実際の飼育は使用人の人達がやってるから、そこまでじゃないわよ」
それを聞いた椋毘登は余りのことに、思わず吹き出してしまい、その場で大きな声で笑い出した。
「お前といると、本当にいろんなことが馬鹿らしく思えてくるな」
「もう、人がせっかく心配していってるのに!」
稚沙は思わず顔をふくらませる。彼女は彼女なりに心配して彼にいったつもりだ。それがここまで大笑いされるとは思ってもみなかった。
「あぁ、分かった分かった。じゃあ今日こそは犯人を見つけないと。稚沙、お前も手伝ってくれるよな?」
「え、私も手伝わせてくれるの?」
「相手も人間のようだし、そんなに剣術にたけた人でもなさそうだ。なら、俺の側にいれば何とかなるだろう」
「本当、わーい、やったー!!」
稚沙は思わずその場で両手を上げて喜んだ。これなら椋毘登の側にもいられる上に、犯人探しにも携われる。まさに彼女の理想通りの展開だった。
「実は厩戸皇子が、少し用事で外に出られるそうなので、その間俺は斑鳩寺を見張ることにしたんだ。たがくれぐれも危ないことはするなよ」
「うん、分かってる」
(よし、椋毘登の側にいれば怖いもの無しだし、絶対に犯人を見つけてやるんだから!)
稚沙もこれは意外に感じて、思わず驚きの声を呑んだ。いくら同族とはいえ、彼は相手に明らかな敵対心を見せている。
「まぁ、そう思うならそれで良い。せいぜい私の悪義を暴くことだな」
「えぇ、犯人が誰であろうと、俺は絶対に容赦しない!」
椋毘登は彼にそういい返した。まるで今にも一発触発するかのような様子で、相手に厳しい目を向けている。
だが境部摩理勢の方は、ひどく愉快そうにしながら、そんな椋毘登の敵意を簡単に受け流した。
「では厩戸皇子の元に挨拶に行ってくるとするか。じゃあな椋毘登、くれぐれも失態をするんじゃないぞ」
境部摩理勢はそれだけ彼にいって、あっさりとその場を離れていった。そんな彼の行動は、まるで甥の椋毘登など全然取るに足らない相手だといっているようなものだった。
「くそ、摩理勢め!お前が犯人だった時は、俺がお前を倒してやる!!」
椋毘登はそういって、稚沙の手を握っていない方の手で、拳をぎゅっと握りしめた。彼の表情からは明らかに怒りの感情が込み上がってきている。
稚沙はそんな椋毘登をそばで見つめ、何ともやるせない思いになった。彼女も彼が本心でこんなことをいう人間じゃないのは分かっている。
(椋毘登は一族を守るために、こんなにも頑張ってるのに......)
稚沙は思わず椋毘登を前から抱きしめる。そして何とか彼の心を解きほぐそうと、愛しさをつのらせていった。
「大丈夫よ、椋毘登。きっと全てが上手く収まるようになるから」
それから椋毘登は何も発することなく、稚沙に体を預けた状態で、少しの間無言を続けた。
そして暫くしてだいぶ気分が落ち着いたのか、ふと彼女に顔を向けた。
「ありがとう、稚沙。俺も出来れば誰も傷つけたくはないんだ。だから今はやれるだけのことをしていくよ」
「うん、椋毘登。その意気よ!」
稚沙は笑ってそう答える。そして少し体を離してから彼の両手を握っていった。
「それと、もし本当にこの件で馬子様達が責任を取らされて、椋毘登の立場も危なくなるなら、その時はうちに来たら良いのよ!」
「はあ?お前のとこって。ま、まさか額田部に??」
「そう。うちも一応豪族ではあるけど、政には余り関わらないから、危険性は少ないと思うの」
「まぁ、馬飼部だもんな......それはつまり俺に馬の飼育にたずされと?」
「もちろん、実際の飼育は使用人の人達がやってるから、そこまでじゃないわよ」
それを聞いた椋毘登は余りのことに、思わず吹き出してしまい、その場で大きな声で笑い出した。
「お前といると、本当にいろんなことが馬鹿らしく思えてくるな」
「もう、人がせっかく心配していってるのに!」
稚沙は思わず顔をふくらませる。彼女は彼女なりに心配して彼にいったつもりだ。それがここまで大笑いされるとは思ってもみなかった。
「あぁ、分かった分かった。じゃあ今日こそは犯人を見つけないと。稚沙、お前も手伝ってくれるよな?」
「え、私も手伝わせてくれるの?」
「相手も人間のようだし、そんなに剣術にたけた人でもなさそうだ。なら、俺の側にいれば何とかなるだろう」
「本当、わーい、やったー!!」
稚沙は思わずその場で両手を上げて喜んだ。これなら椋毘登の側にもいられる上に、犯人探しにも携われる。まさに彼女の理想通りの展開だった。
「実は厩戸皇子が、少し用事で外に出られるそうなので、その間俺は斑鳩寺を見張ることにしたんだ。たがくれぐれも危ないことはするなよ」
「うん、分かってる」
(よし、椋毘登の側にいれば怖いもの無しだし、絶対に犯人を見つけてやるんだから!)



