「おい、そこにいるのは誰だ!」
その日の夜、斑鳩寺の伽藍の前で怪しい人影を目撃したとの情報が入ったきた。だが相手は見張りに見つかるなり、すぐさま逃げてしまったようで、その日も結局捕えることはできなかった。
さらに翌日になり、その話を聞いた稚沙がさっそく椋毘登の元にやってきて、詳しい内容を聞こうとした。
今日の彼女の仕事は、塔のまわりの掃除と、この寺院にいる人達の頼まれごとを色々と引き受けていたのだが、その際に話を聞いたようで、慌てて椋毘登の元にやってきたのだ。
「ねぇ椋毘登。ついに怪しい人が現れたんでしょう。それで何か分かったの?その人を捕まえたら事件が解決する?」
「さぁ、どうだろう。その人が犯人かはまだ分からない。それにまだ祟りなのでは?って信じてる人達もいるからね」
椋毘登は稚沙に服の裾を少し引っ張られながらも、腕を組んだ状態で、泰然とした様子で彼女にそう答える。
「ふーん、そうなんだ。中々難しいのね」
稚沙としても、いつまでも斑鳩寺にいられる訳ではないので、事件の真相が早く明らかになって貰いたいと思う。
だがそこで稚沙は、椋毘登の表情が少し優れないことにふと気がつく。日頃から彼は護衛の仕事も良くしているのだが、今回はやはり勝手が違うのだろうか。
「ねぇ、椋毘登。あなたちょっと疲れてるんじゃないの?」
「へえ?俺が、別にそんなことは無いと思うけど」
そういって彼は、軽く彼女の腕を払いのけると、少し体を揺さぶって見せてくれる。
だが彼もここに来てから既に数日が経っている。なので全く疲れないなんてことは、中々考えられない。
(それに何だか、椋毘登少しそっけなくない?)
「じゃあ、稚沙、俺はそろそろ行くよ」
「え、ちょっと、椋毘登!」
だが突然に、稚沙とはまた別に椋毘登を引き止める声が、彼女の背後から勇ましく聞こえてきた。
「椋毘登、いつからここにいるのだ」
2人は思わずその相手に目を向ける。その声の主はあの境部摩理勢で、そして相変わらず突き刺すような視線で彼らを凝視してきた。
稚沙は苦手な蘇我の権力者の登場に怖気付き、反射的に椋毘登に身を寄せる。
一方の椋毘登も彼女の意図を読んでか、そっと手を握ってくれた。そんな彼の手の温もりが、少し安心感をもたらしてくれる。
(く、椋毘登......)
「摩理勢の叔父、どうしてここに?」
「ふん、これだけの騒ぎだ。心配になって見にきたに決まってるだろ?」
「そうですか。叔父上はご心配なく、この問題は絶対に解決させて見せます。これが祟りだとは俺には到底思えない」
「またえらく大きな態度に出るな。それなら早いと犯人を捕まえてみせろ!!」
境部摩理勢は豪快に椋毘登にそういい放つ。その瞬間、その場には少し重苦しい雰囲気が漂ってきた。
だが椋毘登はそんな状態の中でも怯むことなく、理勢に言葉を返す。そこには彼の何とも挑発的な様子も垣間見られた。
「そうですね。この事件が解決しなければ、馬子の叔父上が責任を取らざるえなくなるかもしれない。
まぁそうなれば、あなたにとっては悪い話ではないんでしょうが」
「椋毘登、お前は何が言いたい」
「蘇我馬子の親子が失脚すれば、次の蘇我の実権を握るのはあなただ。それに最近あなたが奇妙の動きをしていると言う話を聞きましてね」
(え、それって、椋毘登は境部摩理勢が犯人だと思ってるの?)
椋毘登の余りの発言に稚沙は思わず血の気が引いた。親戚同士でこんな話が平然と出来る蘇我が、何とも恐ろしい。
「なるほど、俺がこの事件の犯人だと。お前はそんな風に考えていたのか。これは愉快だ!」
それを聞いた境部摩理勢は、いきなり声を上げて笑いだした。それはまるで相手をあざ笑うかのように。
その日の夜、斑鳩寺の伽藍の前で怪しい人影を目撃したとの情報が入ったきた。だが相手は見張りに見つかるなり、すぐさま逃げてしまったようで、その日も結局捕えることはできなかった。
さらに翌日になり、その話を聞いた稚沙がさっそく椋毘登の元にやってきて、詳しい内容を聞こうとした。
今日の彼女の仕事は、塔のまわりの掃除と、この寺院にいる人達の頼まれごとを色々と引き受けていたのだが、その際に話を聞いたようで、慌てて椋毘登の元にやってきたのだ。
「ねぇ椋毘登。ついに怪しい人が現れたんでしょう。それで何か分かったの?その人を捕まえたら事件が解決する?」
「さぁ、どうだろう。その人が犯人かはまだ分からない。それにまだ祟りなのでは?って信じてる人達もいるからね」
椋毘登は稚沙に服の裾を少し引っ張られながらも、腕を組んだ状態で、泰然とした様子で彼女にそう答える。
「ふーん、そうなんだ。中々難しいのね」
稚沙としても、いつまでも斑鳩寺にいられる訳ではないので、事件の真相が早く明らかになって貰いたいと思う。
だがそこで稚沙は、椋毘登の表情が少し優れないことにふと気がつく。日頃から彼は護衛の仕事も良くしているのだが、今回はやはり勝手が違うのだろうか。
「ねぇ、椋毘登。あなたちょっと疲れてるんじゃないの?」
「へえ?俺が、別にそんなことは無いと思うけど」
そういって彼は、軽く彼女の腕を払いのけると、少し体を揺さぶって見せてくれる。
だが彼もここに来てから既に数日が経っている。なので全く疲れないなんてことは、中々考えられない。
(それに何だか、椋毘登少しそっけなくない?)
「じゃあ、稚沙、俺はそろそろ行くよ」
「え、ちょっと、椋毘登!」
だが突然に、稚沙とはまた別に椋毘登を引き止める声が、彼女の背後から勇ましく聞こえてきた。
「椋毘登、いつからここにいるのだ」
2人は思わずその相手に目を向ける。その声の主はあの境部摩理勢で、そして相変わらず突き刺すような視線で彼らを凝視してきた。
稚沙は苦手な蘇我の権力者の登場に怖気付き、反射的に椋毘登に身を寄せる。
一方の椋毘登も彼女の意図を読んでか、そっと手を握ってくれた。そんな彼の手の温もりが、少し安心感をもたらしてくれる。
(く、椋毘登......)
「摩理勢の叔父、どうしてここに?」
「ふん、これだけの騒ぎだ。心配になって見にきたに決まってるだろ?」
「そうですか。叔父上はご心配なく、この問題は絶対に解決させて見せます。これが祟りだとは俺には到底思えない」
「またえらく大きな態度に出るな。それなら早いと犯人を捕まえてみせろ!!」
境部摩理勢は豪快に椋毘登にそういい放つ。その瞬間、その場には少し重苦しい雰囲気が漂ってきた。
だが椋毘登はそんな状態の中でも怯むことなく、理勢に言葉を返す。そこには彼の何とも挑発的な様子も垣間見られた。
「そうですね。この事件が解決しなければ、馬子の叔父上が責任を取らざるえなくなるかもしれない。
まぁそうなれば、あなたにとっては悪い話ではないんでしょうが」
「椋毘登、お前は何が言いたい」
「蘇我馬子の親子が失脚すれば、次の蘇我の実権を握るのはあなただ。それに最近あなたが奇妙の動きをしていると言う話を聞きましてね」
(え、それって、椋毘登は境部摩理勢が犯人だと思ってるの?)
椋毘登の余りの発言に稚沙は思わず血の気が引いた。親戚同士でこんな話が平然と出来る蘇我が、何とも恐ろしい。
「なるほど、俺がこの事件の犯人だと。お前はそんな風に考えていたのか。これは愉快だ!」
それを聞いた境部摩理勢は、いきなり声を上げて笑いだした。それはまるで相手をあざ笑うかのように。



