「はぁー、あのな稚沙。俺がそんな所に行く訳ないだろ」
「へえ?」
彼のその一言で、それまで二人の間に流れていた甘い雰囲気が一瞬のうちにこわれた。というより、稚沙にとってはかなりの衝撃だろう。
「だいたい歌が詠みたいなら、宮の人達とやり合ったら良いだろう。お前も、そんなことにいちいち俺を巻き込むな!」
古麻も自分が必死でお願いすれば、椋毘登もきっと聞いてくれるといっていた。だが実際のところ、それは全くの検討違いだった。
「な、何よ、ちょっとぐらい私のお願いごとを聞いてくれたって……それに、何もそんな言い方ってないじゃない!」
稚沙はそんな椋毘登の態度にたいして、ふと我慢が出来なくなり、彼女の目からは大粒の涙が溢れだした。
椋毘登もそんな彼女を見て、これはさすがにまずいと思った。ここは建物の裏道だ、いつ人に見られてしまうかも分からない。
「お、おい。稚沙落着けよ。ここではまずい……」
だが稚沙にはそんな彼の言葉は全く響かない。そして勢いに任せ、彼女はさらに言葉を発した。
「椋毘登は本当に私のことを何だと思っているのよ!やっぱり私のことなんて、全然大切じゃないんだー!!」
そして彼女はワンワンと声を出し、その場で泣き出してしまった。
「椋毘登のばか~!」
椋毘登もそんな彼女の光景を目の当たりにし、完全にお手上げ状態となる。これはもう本当にどうしようもない。
「わ、分かった!稚沙。行けば良いんだろ、行けば。お前の話すその歌垣に一緒について行ってやるって!」
それまでワンワンと泣いていた稚沙だが、椋毘登のその発言を聞いた途端、急に泣き声がピタッと止んだ。そしてそのまま彼に目線を向けて、再度問う。
「ほ、本当に行ってくれる……?」
「あぁ」
「本当に本当?」
「あぁ、本当に本当だ。だからお前もいい加減に機嫌をなおせ!」
稚沙もそれを聞いてやっと納得することができた。彼にそういって貰えるなら、自身の機嫌なんてたちまち良くなる。
(これで椋毘登と一緒に歌垣に参加できる)
「あぁ、良かった。これで歌垣に参加できそう。それに古麻からもいわれていたの。椋毘登なら絶対私のお願いを聞いてくれるって!」
稚沙は椋毘登にそう話すと、自身の顔に笑が戻ってきた。彼女は割と単純な性格なので、悲しい気持ちもちょっと泣けば直ぐに治まる。
「はあー古麻も本当にやっかいなことを稚沙に話してくれるな。で、歌垣の日程はいつなんだ?それと海石榴市なら馬で行った方が良さそうだ」
椋毘登もまだ少し愚痴はこぼすものの、完全に開き直ってしまう。彼も一度行くといってしまった以上、もういい逃れはできないのだろう。
「うん、来月の4月15日にあるそう。その日は私も休みにしてもらうよう頼んでみる。椋毘登は大丈夫?」
「分かった、来月の15日だな。じゃあ俺もその日は空けておくようにする」
これでようやく2人の歌垣の参加が決まった。当日は椋毘登が馬に乗せて行ってくれる様子なので、行き帰りも特に問題はなさそうだ。
(わあ、これで無事歌垣に参加できる。あ、それなら当日までに歌の練習もしておかないと!)
稚沙はそう思ってひどく気合を入れる。彼女は当日が本当に楽しみになってきた。
だが 一方の椋毘登は、稚沙とは対照的に酷く憂鬱そうな様子である。そしてとても嬉しいそうにしている彼女に対して小さく呟いた。
「てか、お前。歌垣がどういう場所なのか本当に知っているのか」
「うん?椋毘登何かいった?」
「……いや、何んでもない」
だが椋毘登は、稚沙があまりに嬉しそうなため、それ以上は何もいわなかった。
こうして2人は歌垣に向けて、それぞの想いを胸に当日を迎えることとなった。
「へえ?」
彼のその一言で、それまで二人の間に流れていた甘い雰囲気が一瞬のうちにこわれた。というより、稚沙にとってはかなりの衝撃だろう。
「だいたい歌が詠みたいなら、宮の人達とやり合ったら良いだろう。お前も、そんなことにいちいち俺を巻き込むな!」
古麻も自分が必死でお願いすれば、椋毘登もきっと聞いてくれるといっていた。だが実際のところ、それは全くの検討違いだった。
「な、何よ、ちょっとぐらい私のお願いごとを聞いてくれたって……それに、何もそんな言い方ってないじゃない!」
稚沙はそんな椋毘登の態度にたいして、ふと我慢が出来なくなり、彼女の目からは大粒の涙が溢れだした。
椋毘登もそんな彼女を見て、これはさすがにまずいと思った。ここは建物の裏道だ、いつ人に見られてしまうかも分からない。
「お、おい。稚沙落着けよ。ここではまずい……」
だが稚沙にはそんな彼の言葉は全く響かない。そして勢いに任せ、彼女はさらに言葉を発した。
「椋毘登は本当に私のことを何だと思っているのよ!やっぱり私のことなんて、全然大切じゃないんだー!!」
そして彼女はワンワンと声を出し、その場で泣き出してしまった。
「椋毘登のばか~!」
椋毘登もそんな彼女の光景を目の当たりにし、完全にお手上げ状態となる。これはもう本当にどうしようもない。
「わ、分かった!稚沙。行けば良いんだろ、行けば。お前の話すその歌垣に一緒について行ってやるって!」
それまでワンワンと泣いていた稚沙だが、椋毘登のその発言を聞いた途端、急に泣き声がピタッと止んだ。そしてそのまま彼に目線を向けて、再度問う。
「ほ、本当に行ってくれる……?」
「あぁ」
「本当に本当?」
「あぁ、本当に本当だ。だからお前もいい加減に機嫌をなおせ!」
稚沙もそれを聞いてやっと納得することができた。彼にそういって貰えるなら、自身の機嫌なんてたちまち良くなる。
(これで椋毘登と一緒に歌垣に参加できる)
「あぁ、良かった。これで歌垣に参加できそう。それに古麻からもいわれていたの。椋毘登なら絶対私のお願いを聞いてくれるって!」
稚沙は椋毘登にそう話すと、自身の顔に笑が戻ってきた。彼女は割と単純な性格なので、悲しい気持ちもちょっと泣けば直ぐに治まる。
「はあー古麻も本当にやっかいなことを稚沙に話してくれるな。で、歌垣の日程はいつなんだ?それと海石榴市なら馬で行った方が良さそうだ」
椋毘登もまだ少し愚痴はこぼすものの、完全に開き直ってしまう。彼も一度行くといってしまった以上、もういい逃れはできないのだろう。
「うん、来月の4月15日にあるそう。その日は私も休みにしてもらうよう頼んでみる。椋毘登は大丈夫?」
「分かった、来月の15日だな。じゃあ俺もその日は空けておくようにする」
これでようやく2人の歌垣の参加が決まった。当日は椋毘登が馬に乗せて行ってくれる様子なので、行き帰りも特に問題はなさそうだ。
(わあ、これで無事歌垣に参加できる。あ、それなら当日までに歌の練習もしておかないと!)
稚沙はそう思ってひどく気合を入れる。彼女は当日が本当に楽しみになってきた。
だが 一方の椋毘登は、稚沙とは対照的に酷く憂鬱そうな様子である。そしてとても嬉しいそうにしている彼女に対して小さく呟いた。
「てか、お前。歌垣がどういう場所なのか本当に知っているのか」
「うん?椋毘登何かいった?」
「……いや、何んでもない」
だが椋毘登は、稚沙があまりに嬉しそうなため、それ以上は何もいわなかった。
こうして2人は歌垣に向けて、それぞの想いを胸に当日を迎えることとなった。