今は小墾田宮もちょうど夕暮れになりかけている。空を仰ぎ見れば、ゆるりと雲が流れるように動き、宮の人達にたおやかな光景を見せてくれる。
少し前まで宮の外に出れば、蛍も飛び交っていたのが、徐々に梅雨の季節に変わりはじめているようで、何とも季節の変わりめを感じさせられる。
そして稚沙も、その日の仕事がようやく終わりに近づいていたのだが、そこに古麻が突然やってきて、彼女からある話を聞かされる。
「え、厩戸皇子と馬子様が、炊屋姫様の元に今いらしてるの!!」
稚沙は古麻から聞いた話に動転してしまう。3人がこんな時刻に集って話をするとなると、一体何があったのだろう。
「そうなの。何んでも最近ここいらで起きている物騒な事件のことで、その対応にいよいよ乗りだすそうよ」
(最近起きている物騒な事件って、もしかして例の仏像造りを邪魔されてる件のこと?)
「古麻、その事件ってもしかして仏像造の?」
「あら、稚沙もやっぱり知っていたのね」
「うん、先日蝦夷から聞いたわ」
「確かに蝦夷殿なら知ってるわね。私も先日宮の人から聞いたわ。それで元々このことは内密にされていたみたいだけど、騒ぎがだんだん大きくなってきて、隠し通すのも難しくなったみたい」
(まぁ、蝦夷が私に話すぐらいだから、事件のことが皆に知られるのも、そうそう時間の掛かるものでも無かったかも)
蝦夷は仮にも蘇我馬子の息子だ。この事件にもそれなりに関わっているのはまず間違いない。だから彼的にも本当に内密にしたかったのだろう。たが彼も変なところで爪の甘いところがある。
「でも何が原因かも分からないんじゃあ、どうすることもできないんじゃない?」
この前の蝦夷との話では、これが祟りの仕業なのか、それとも誰かが意図的にそう仕向けたのか、そのことはまだはっきりとは分からないようだった。
恐らくそのどちらになるかで、彼らの対応も必然的に変わってくるだろう。
(うーん、こればかりは厩戸皇子達でもどうすることも出来ないんじゃ。それにこの話がいつ百済の方に伝わるかも分からないし。もしこのことが原因で両国の関係に支障でも出るようなら、それこそ大問題だわ)
稚沙もどうしたものかと、悶々と頭を悩ませる。だが女官の彼女の頭では、どんなに知恵を絞った所で、とうてい良い解決案も浮ばない。
「本当にそうよね。次にどこの寺院が狙われるかも分からないのだから」
「次にどこの寺院が狙われるか分からない......」
稚沙はそれを聞いてふと思考をめぐらす。今回の事件の場合、狙われるのは寺院のみである。つまりそれ以外の場所は、全く危険に晒されることがないのだ。
「そうか、その手があったわ!」
「え、稚沙どいうこと?」
「ごめん、古麻、私ちょっと炊屋姫様の元に行ってくるね!」
「え、ちょっと稚沙。あなた、また何を考えて?」
稚沙は急にそう思いつくと、古麻の話も聞かずに、くるりと体の向きを変え、そのまま炊屋姫のいる大殿へと大急ぎで向かっていった。
(早く炊屋姫様の元にいかなくっちゃ!)
少し前まで宮の外に出れば、蛍も飛び交っていたのが、徐々に梅雨の季節に変わりはじめているようで、何とも季節の変わりめを感じさせられる。
そして稚沙も、その日の仕事がようやく終わりに近づいていたのだが、そこに古麻が突然やってきて、彼女からある話を聞かされる。
「え、厩戸皇子と馬子様が、炊屋姫様の元に今いらしてるの!!」
稚沙は古麻から聞いた話に動転してしまう。3人がこんな時刻に集って話をするとなると、一体何があったのだろう。
「そうなの。何んでも最近ここいらで起きている物騒な事件のことで、その対応にいよいよ乗りだすそうよ」
(最近起きている物騒な事件って、もしかして例の仏像造りを邪魔されてる件のこと?)
「古麻、その事件ってもしかして仏像造の?」
「あら、稚沙もやっぱり知っていたのね」
「うん、先日蝦夷から聞いたわ」
「確かに蝦夷殿なら知ってるわね。私も先日宮の人から聞いたわ。それで元々このことは内密にされていたみたいだけど、騒ぎがだんだん大きくなってきて、隠し通すのも難しくなったみたい」
(まぁ、蝦夷が私に話すぐらいだから、事件のことが皆に知られるのも、そうそう時間の掛かるものでも無かったかも)
蝦夷は仮にも蘇我馬子の息子だ。この事件にもそれなりに関わっているのはまず間違いない。だから彼的にも本当に内密にしたかったのだろう。たが彼も変なところで爪の甘いところがある。
「でも何が原因かも分からないんじゃあ、どうすることもできないんじゃない?」
この前の蝦夷との話では、これが祟りの仕業なのか、それとも誰かが意図的にそう仕向けたのか、そのことはまだはっきりとは分からないようだった。
恐らくそのどちらになるかで、彼らの対応も必然的に変わってくるだろう。
(うーん、こればかりは厩戸皇子達でもどうすることも出来ないんじゃ。それにこの話がいつ百済の方に伝わるかも分からないし。もしこのことが原因で両国の関係に支障でも出るようなら、それこそ大問題だわ)
稚沙もどうしたものかと、悶々と頭を悩ませる。だが女官の彼女の頭では、どんなに知恵を絞った所で、とうてい良い解決案も浮ばない。
「本当にそうよね。次にどこの寺院が狙われるかも分からないのだから」
「次にどこの寺院が狙われるか分からない......」
稚沙はそれを聞いてふと思考をめぐらす。今回の事件の場合、狙われるのは寺院のみである。つまりそれ以外の場所は、全く危険に晒されることがないのだ。
「そうか、その手があったわ!」
「え、稚沙どいうこと?」
「ごめん、古麻、私ちょっと炊屋姫様の元に行ってくるね!」
「え、ちょっと稚沙。あなた、また何を考えて?」
稚沙は急にそう思いつくと、古麻の話も聞かずに、くるりと体の向きを変え、そのまま炊屋姫のいる大殿へと大急ぎで向かっていった。
(早く炊屋姫様の元にいかなくっちゃ!)



