「まぁ、そういうことだ。ところで話は変わるが、最近ここいらで奇妙な事件が起こっているのを知ってるか?」
「へぇ?奇妙な事件??」
「あぁ、炊屋姫の誓願により、皆が仏像造りを始めているんだが。その仏像が一部壊されていたり、他にも銅なんかを飛鳥に運んでいる最中に、盗賊にでくわして盗まれたりしてるんだ」
「え〜今そんな事件が起こってるの〜!!」
稚沙の元には、そのような話はまったく伝わってきていない。なのでもしかすると炊屋姫や直近のごく僅かの人達にのみ伝わっている話なのかもしれない。
「そうか、やはり稚沙たちは知らされていないのか......」
「まぁ、あくまで私が知らなかっただけで、もしかすると他の宮の人なら知ってるのかもしれないけど」
「なるほどな。今はこの仏像造りの為に、百済などから僧や工人の人達もたくさん渡来している。なので父の馬子もこのことは余り公にはしたくなさそうだ」
蘇我馬子の建てた飛鳥寺も、百済から造寺工や瓦博士を始め、沢山の技術を持った集団がやってきて、建立に携わってきた。その為これは国うちだけの問題では済まされないのだろう。
「それは大変な問題だわ。いったい誰がそんなことを?」
「いや、それはまだ分からない。またこれとは別に、夜の寺院の伽藍の周りで、度々人の声が聞こえるくるそうだ。なのでこれは祟じゃないのか?ともいわれ始めている」
「え、祟り?」
「何でもその昔、寺院を建てようとしてここいらで疫病が流行ったことがあっそうだ。それでその時も物部の者たちが『これは仏教をこの国に入れようして、天罰が降ったのではないのか』とかいっていたんだそうだ」
「じゃぁ、それが今回も違う形で起こったっていうの?」
「まぁ一部の人間がいっているだけだ。それと実は今回、中臣氏に極秘に占わせたところ、そういう結果が出てしまったんだそうだ」
「祭祀の中臣氏に占わせたの?」
「あぁ、仏教を受け入れたといっても、上古からト占や祭祀を司っている一族だ。彼らの意見を聞かないわけにもいかない」
中臣氏は忌部氏などと同様に、神代の時代から存在したといわれており、この国においては最古の系譜の一族の一つでもある。
「過去に疫病が流行ったという事実があるなら、それも無くはない話なのかしら......」
稚沙はそういって首を傾げ、思わず「うーん」と考え込みだす。
「いや、俺的には誰かが裏で仕組んでやっているんじゃないかと疑ってるさ。この問題を何とかしないと、我々蘇我の責任だともいわれかねないから」
それを聞いた稚沙も、それなら少し納得がいくような気がした。この話では最悪の場合、蘇我馬子の失脚に繋がってしまう。
以前の彼女なら、ひどく惨忍とされた権力者の蘇我馬子の力が削がれるのは、自分を含めた他の豪族達にとって悪い話ではないと思っていただろう。
だが今そんな事態が現実になれば、権力が分散され、余計な混乱が生じかねない。
またそれに影響して、椋毘登達の立場も悪くなってしまう恐れがある。
「分かったわ。私もこのことは他の人には話さないようにする」
「あぁ、本当にそうしてくれ。稚沙はここぞという時は絶対に他の人に話したりしないだろうし、椋毘登のこともあるから、とりあえず伝えておこうと思ったんだ」
「ありがとう、蝦夷。このことを教えてくれて」
「だがな稚沙、くれぐれもこの件に首を突っ込むようなことはしないでくれよ」
蝦夷はそう念押しする。また変な責任感や好奇心で、彼女が何かしでかしそうに思えてならないのだろう。
「......わ、わかった」
「よし、それなら良い。じゃあおれは行くぞ」
「蝦夷も色々大変だろうけど、本当頑張ってね」
「あぁ、任せておけって!」
彼は彼女に自信げにそう話すと、どうやらこれから自宅に戻るようで、さらに「それじゃ、お前も仕事頑張れよ」とだけいって、そのままサッとその場を離れていった。
(蝦夷はどんな時でも、良い意味で楽観的ね。私もそういう所は少し見習いたいかも)
稚沙はそんな彼の後ろ姿を関心した心もちで、しばしの間眺めていた。
「へぇ?奇妙な事件??」
「あぁ、炊屋姫の誓願により、皆が仏像造りを始めているんだが。その仏像が一部壊されていたり、他にも銅なんかを飛鳥に運んでいる最中に、盗賊にでくわして盗まれたりしてるんだ」
「え〜今そんな事件が起こってるの〜!!」
稚沙の元には、そのような話はまったく伝わってきていない。なのでもしかすると炊屋姫や直近のごく僅かの人達にのみ伝わっている話なのかもしれない。
「そうか、やはり稚沙たちは知らされていないのか......」
「まぁ、あくまで私が知らなかっただけで、もしかすると他の宮の人なら知ってるのかもしれないけど」
「なるほどな。今はこの仏像造りの為に、百済などから僧や工人の人達もたくさん渡来している。なので父の馬子もこのことは余り公にはしたくなさそうだ」
蘇我馬子の建てた飛鳥寺も、百済から造寺工や瓦博士を始め、沢山の技術を持った集団がやってきて、建立に携わってきた。その為これは国うちだけの問題では済まされないのだろう。
「それは大変な問題だわ。いったい誰がそんなことを?」
「いや、それはまだ分からない。またこれとは別に、夜の寺院の伽藍の周りで、度々人の声が聞こえるくるそうだ。なのでこれは祟じゃないのか?ともいわれ始めている」
「え、祟り?」
「何でもその昔、寺院を建てようとしてここいらで疫病が流行ったことがあっそうだ。それでその時も物部の者たちが『これは仏教をこの国に入れようして、天罰が降ったのではないのか』とかいっていたんだそうだ」
「じゃぁ、それが今回も違う形で起こったっていうの?」
「まぁ一部の人間がいっているだけだ。それと実は今回、中臣氏に極秘に占わせたところ、そういう結果が出てしまったんだそうだ」
「祭祀の中臣氏に占わせたの?」
「あぁ、仏教を受け入れたといっても、上古からト占や祭祀を司っている一族だ。彼らの意見を聞かないわけにもいかない」
中臣氏は忌部氏などと同様に、神代の時代から存在したといわれており、この国においては最古の系譜の一族の一つでもある。
「過去に疫病が流行ったという事実があるなら、それも無くはない話なのかしら......」
稚沙はそういって首を傾げ、思わず「うーん」と考え込みだす。
「いや、俺的には誰かが裏で仕組んでやっているんじゃないかと疑ってるさ。この問題を何とかしないと、我々蘇我の責任だともいわれかねないから」
それを聞いた稚沙も、それなら少し納得がいくような気がした。この話では最悪の場合、蘇我馬子の失脚に繋がってしまう。
以前の彼女なら、ひどく惨忍とされた権力者の蘇我馬子の力が削がれるのは、自分を含めた他の豪族達にとって悪い話ではないと思っていただろう。
だが今そんな事態が現実になれば、権力が分散され、余計な混乱が生じかねない。
またそれに影響して、椋毘登達の立場も悪くなってしまう恐れがある。
「分かったわ。私もこのことは他の人には話さないようにする」
「あぁ、本当にそうしてくれ。稚沙はここぞという時は絶対に他の人に話したりしないだろうし、椋毘登のこともあるから、とりあえず伝えておこうと思ったんだ」
「ありがとう、蝦夷。このことを教えてくれて」
「だがな稚沙、くれぐれもこの件に首を突っ込むようなことはしないでくれよ」
蝦夷はそう念押しする。また変な責任感や好奇心で、彼女が何かしでかしそうに思えてならないのだろう。
「......わ、わかった」
「よし、それなら良い。じゃあおれは行くぞ」
「蝦夷も色々大変だろうけど、本当頑張ってね」
「あぁ、任せておけって!」
彼は彼女に自信げにそう話すと、どうやらこれから自宅に戻るようで、さらに「それじゃ、お前も仕事頑張れよ」とだけいって、そのままサッとその場を離れていった。
(蝦夷はどんな時でも、良い意味で楽観的ね。私もそういう所は少し見習いたいかも)
稚沙はそんな彼の後ろ姿を関心した心もちで、しばしの間眺めていた。



