翌月には、炊屋姫が鞍作鳥に(みことのり)していった。

「私が、仏の教えを広めていく仏寺を建てるために舎利を得たいと思ったとき、そなたの祖父の司馬達等(しば たちと)は、すぐに舎利を献上してくれました。

 またこの国に僧尼がいなかったので、そなたの父の多須那(たすな)が、橘豊日大王(たちばなのとよひのおおきみ)のために出家して、仏法を敬いました。

 さらに伯母の(しま)は、最初に出家をとげ、尼たちの指導者として仏道を修行しました。

 私が丈六の仏像を造るために、すぐれた仏の図像を求めていると、おまえが献上した仏の図像が私の心にとてもかなっていました。

 また仏像が完成して、堂に入れることができなかった際に、工人たちは手のつけようがなく、堂の戸を壊そうとしていたのに、おまえは戸を壊さずに入れることができました。

 これらは皆、そなたのお陰です。本当に感謝しています」

 炊屋姫は彼と彼の親族の功績を一つ一つ語っていった。

 その後に鞍作鳥は大仁(だいにん)の位を賜わり、また近江国の坂田郡の水田二十町を賜わることとなった。



 それからさらに数日したある夜のことである。
 椋毘登が自宅の床で寝てる時のこと、彼は不思議な夢を見ていた。

 彼の前には1人の青年が立っている。だがどういう訳か、彼の顔はおぼろげではっきりと見ることが出来ない。

「お前は一体何者なんだ、どうしていうも俺の夢の中に現れるんだ?」

 相手の青年はその問いに反応し、椋毘登に一言だけ言葉を返す。

「お願いだ、どうかあの子を守って欲しい……」

(え、あの子?一体誰のことをいってるんだ)

 だが青年はそらから段々に姿が消えていき、それと同時に椋毘登も自身の夢から離れていった。

 そして彼は『ハッ!』とした。彼はどうやら、自身の自宅の部屋で目を覚ましたようだ。

「はぁ、またあの夢か……」

 彼はふと寝床から体を起こすると立ち上がり、そのままふらっと部屋の外に出ていった。

 今は深夜のため、辺りは一帯は暗闇に包まれている。だが空を見上げると、月が柔らかく輝き、その光だけははっきりと見てとれるようだ。

「あの夢は本当に何なのだろう。というか、俺に一体どうしろっていうんだよ」

 椋毘登は一人言のようにそう呟いて、しばらく空を眺めた。

(どうかあの子を守ってほしいか......)