「ほぉー、私の事が伝わっていたとは、それは意外だった。であれば話しは早い。ここで私の存在を知られてしまったからには生かしておく訳にはいかない」

そう言って、大炯(でひょん)は腰から剣を抜いた。
彼は雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)を倒すつもりでいるようだ。

(こいつは、かなり強そうだな。兄上達が来るまでは何とか時間を稼がないと)

「良いか、佐由良(さゆら)。お前は俺が必ず守ってやるから少し後ろに下がっていろ」

「分かったわ。雄朝津間皇子も気を付けて」

そう言って彼女はゆっくりと彼の後ろに下がった。

忍坂姫(おしさかのひめ)はそんな2人のやり取りをただただ呆然と見ていた。この2人に一体何があったのだろう。
それに皇子の彼女に対する接し方は、単なる大王の妃に対しての接し方とは到底思えない。

雄朝津間皇子は彼女が後ろに下がった事を確認すると、再び剣を持ち直して大炯に目を向けた。

そして2人は互いに飛び掛かって行った。

すると剣のぶつけ合いの音が、その場で激しく響いた。
大炯が剣を振ると、彼は必死でそれを受け止める。すると大炯は1歩後ろに下がり、また素早く皇子に襲い掛かって来る。

雄朝津間皇子は、彼の剣を受け止めるので精一杯の状態だった。しかしそれも少しでも油断すれば、確実に自分が斬られてしまう。

(くそ、こいつ何て強いんだ……)

彼の息は徐々に上がって来ていた。
このまま剣の戦いが続けば、確実に彼の方が倒れてしまう。

(これは何とか勝てそうだ。しかしこの青年、なんと言う集中力なんだ)

大炯は時間が長引けば、彼の仲間がやって来るかもしれないと思った。であれば早いところ決着を付けないといけない。


そんな様子を忍坂姫はただだた見ているほか無かった。

(どうしよう、このままじゃ雄朝津間皇子が……)



そんな頃だった。瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)達がこの丘までやって来ていた。
先程の雄朝津間皇子の行動が気になり、宮に戻るのを早めたのだ。

そして宮に戻ると、ここの丘に行くよう言われ、数名の腕の立つ従者を引き連れてやって来た。

「あれは雄朝津間?」

瑞歯別大王は彼らの状況を見て、これはただ事ではないと思った。

(あの雄朝津間が、押されている!)

稚田彦(わかたひこ)、頼む!!」

瑞歯別大王は慌てて彼にそう言った。
早く行かないと弟があの敵に殺られてしまう。

稚田彦も大王に言われて、事の重大さを悟った。

「分かりました。急いで行ってきます」

そう言うなり、稚田彦は馬から降りると、急いで雄朝津間皇子の元へと向かった。

一方瑞歯別大王は、この付近に他に人が潜んでいないか、また怪我人がいないかの確認をしながら向かう事にした。

(佐由良、阿佐津姫、済まない。俺が大王じゃなかったら直ぐに向かえるんだが...稚田彦を行かせてしまった以上、俺が指示を出さないと行けない。それに今は雄朝津間を早くたすけないといけないんだ)