瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)は自分いる宮の部屋で、考え事をしていた。それは弟の雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)の婚姻についての事だった。

「さて、これをどう本人に言うべきか。いきなりそんな話しを持ちかけて、納得するだろうか……」

稚野毛皇子(わかぬけのおうじ)には、彼の娘との婚姻は了承したと既に伝えている。そうでもしないと、雄朝津間皇子の妃選びが中々進まないので、今回行動を起こしてみようと考えたのだ。

ただ今回は本人達の意思を尊重する為、強制的な婚姻ではない。それなら彼にも納得させやすいと大王は考えた。

「雄朝津間は、適齢期になっても妃になるような姫の元に全く通う事が無かった。であればこちらからどこかの姫を勧めてみるのも悪くはない」

また自分が大王に即位した際に、彼を皇太子にしようと試みたが、本人から辞退されてしまった。大王的には雄朝津間皇子に、もっと皇子としての自覚をもって貰いたいと言う思いがあった。

そんな事を瑞歯別大王が考えていた丁度その時だった。

「兄上、俺に話ってなんでしょうか?」

1人の青年が大王の部屋の中に入ってきた。彼は大王の弟で、今彼が色々考え込んでいた張本人である雄朝津間皇子だった。

「雄朝津間、悪いな急に呼び出して」

雄朝津間皇子は、先の大王である去来穂別大王(いざほわけのおおきみ)の宮に住んでいた。ここには先の大王の息子である市辺皇子(いちのへのおうじ)も一緒にいる。

彼は部屋の中に入って来ると、瑞歯別大王の前に来てそのまま座った。

「まぁ、この宮にはまだ来た事がなかったから丁度良かったよ」

歳も18になり、だいぶ子供の頃の面影は無くなったと瑞歯別大王は思う。
今は表だって政り事に参加はしてないが、それ以外の、中々大王が動きずらい所で影で働いてくれている。

本来なら大王を補佐できるだけの高い能力があるのだが、何故か表だって政り事に関わる事を彼は拒んでいた。

「それでだな。実は先日俺達の叔父に当たる稚野毛皇子から連絡があった。何でも彼の娘である忍坂姫(おしさかのひめ)をお前の妃にしたいとの事だ」

「は!?妃に」

彼はまた面倒な話しだなと思った。しかも相手は皇女で、昔一回会った事があるだけの娘だ。しかもその時遊びに付き合わされ、散々な目に合っていた。

(確かあちらこちらを走り回られて、ワガママだし、何か言うと直ぐ泣きじゃくってたよな)