忍坂姫(おしさかのひめ)は思った。自分と雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)もいとこ同士で、小さい頃に2人で遊んだ事があったが、皇子的には散々な目に合っていたようだ。

市辺皇子(いちのへのおうじ)阿佐津姫(あさつひめ)もいとこ同士なので、将来自分達のように、婚姻を薦められたりするかもしれない。

もし本当に将来そんな話しが出たら、この2人はどうするのだろうか。
少なくとも市辺皇子と阿佐津姫には、自分達と同じ二の舞を踏ませる事だけはさせたくないと彼女は思った。

(出来れば今のうちから仲良くはして貰いたいけど、どうもお互いの事をかなり嫌っているみたいだから、今はそっとしておいた方が良いかもしれないわね)

忍坂姫はふとそんな事を思った。この幼い姫と皇子の立場を考えると、ありえる話しだ。


それから暫くして、佐由良(さゆら)が使用人との話しを終えて忍坂姫達の元に戻ってきた。
彼女の感じだと、宮の使用人からの了承は得られたようだ。

「宮の人達に説明してきたわ。じゃあ早く準備をして行きましょうか」

佐由良は、阿佐津姫に先程話した小高い丘に行く事を彼女に説明した。
阿佐津姫もそれを聞いて、「わぁ、私も行きたい~」と上機嫌で言った。

「でも大王達がその間に戻って来られたりしないでしょうか?」

忍坂姫は、ふと大王達の事を心配していた。

「大王には、もしする事が無くなったらその丘に行くかもしれないと、実は昨日話しをしておいたの」

佐由良は忍坂姫にそう説明した。

それを聴いた忍坂姫は、であれば大王もそこまで心配する事はないだろうと思った。
それに宮の使用人に言付けておけば、大王達が戻ってきた時に伝えてもらえる。

(それにここからすぐ近くと言っていたから、直ぐに戻れるだろうし)

こうして忍坂姫は、佐由良とその娘の阿佐津姫と共に、この宮から少し行った所にある小高い丘に行く事にした。