「うーん、そうですね。あの子には誰が良いのかしら」

百師木姫(ももしきのひめ)も夫と一緒になって考え出した。

和珥(わに)葛城(かつらぎ)蘇我(そが)物部(もののべ)……私も他の豪族は余り知らないので」

百師木姫自身、息長で大事に育てられてきた姫で、彼女は他の豪族との交流は無いに等しい。


「そう言えば、葛城から皇族に嫁がれた磐之媛(いわのひめ)は、確か皇子を4人産んでましたよね。なのでもう1人皇子がいたはず」

「うん、磐之媛?そうか、その手があったか!」

稚野毛皇子(わかぬけのおうじ)は思い出した、磐之媛が産んだ末の皇子の事を。

今の瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)の弟に当たる雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)がいたのだ。

「私の計算では、雄朝津間皇子は今年18歳になられてるはずだ。だが妃を娶ったと言う話しは聞いていない。
今の大王は皇子の頃から政り事に携わっていたが、雄朝津間皇子は表向きには政り事に余り携わってないから、すっかり忘れていた」

「そうですわね。忍坂姫とは従兄弟同士でも、2人は幼少期の頃しか会わせてなかったので、逆に新鮮かもしれません」

百師木姫も雄朝津間皇子が相手というのは、身分的にも釣り合っているので、娘の嫁ぎ先としては申し分ないと思った。

「よし、では早速瑞歯別大王にお伺いを立ててみるか」

稚野毛皇子の中でも、雄朝津間皇子で考えがまとまった。となると、他の姫に先を越されないよう、急いで話しを持ち掛けたい。


「でも、皇子。まずは忍坂姫にも言わないと」

百師木姫は今にも動き出しそうとする夫を止めて言った。

この婚姻は娘の忍坂姫のものだ。彼女の意思も聞かずに進めるのは流石に母親として忍びない。

「ただこの話しをしても、あの子が素直に動じるだろうか?」

この時代、族同士の政略結婚なんてものは、当たり前に行われていた。

皇族の娘である忍坂姫も例外ではない。

「分かりました皇子。忍坂姫には私から言います。それで良いですね」

妻である百師木姫にそう言われ、稚野毛皇子も渋々了承した。