「まぁ、許す許さないと言う事であれば、私はもう怒ってません。私の方こそ結構酷い事言ってしまったので」

それを聞いた雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)は彼女に言った。

「そんな事俺は全然気にしてない!とりあえず君がもう怒ってないと知って、本当に安心したよ」

そう言って彼はとても安堵する。
どうやら彼自身もやっと心配事から解放されたようだ。

(もしかして、皇子今回の事をかなり気にしていたのかしら。てっきりまだ凄く怒っているとばかり思っていたわ)

「じゃあ、とりあえずは仲直りって事で」

雄朝津間皇子はニコニコしながら、彼女に言った。

「そうですね。では今回はそういう事にしておきます」

忍坂姫(おしさかのひめ)も、とりあえず雄朝津間皇子と仲直り出来た事にほっとした。
これで明日は変な心配をせずに出掛けられる。



忍坂姫がそう思っていてると、皇子が急に腰にあった袋を取り出した。

(うん?袋なんか取り出してどうしたんだろう)

忍坂姫は不思議そうに彼の行動を見ていた。

すると彼は袋から何かを取り出した。
それはどうやら腕飾りのようで、黄や緑、褐色と言ったガラス製の玉が紐で通してあった。

「今回の偵察時に見つけたんだ。これを君に贈ろうと思って」

彼はそう言うなり、その腕飾りを彼女の腕に通した。
忍坂姫はまじまじとその腕飾りを見つめた。色がとても鮮やかで、恐らくとても高価な物なのだろう。

「皇子、良いんですか!こんな高価な物頂いて」

忍坂姫は急な贈り物にとても喜んだ。そして、幸せそうにその腕飾りを眺めていた。

そんな彼女を見て、雄朝津間皇子もとても嬉しそうにしていた。

「君の為に持って帰ってきたんだ。喜んで貰えて本当に嬉しいよ」

(まさか、雄朝津間皇子からこんな素敵な贈り物を頂けるなんて……)

「じゃあ、明日も出かける事になるから、そろそろ俺は失礼するね。君も今日は早く休みたいだろうし」

彼は忍坂姫にそう言うと、そのまま立ち上がる。

そんな彼を見て、せめて部屋の入り口でお見送りをしようと思い、忍坂姫も彼の後を追った。

「では、雄朝津間皇子、今日は本当にありがとうございました」

忍坂姫は笑顔で彼にそう言った。

そんな彼女を見て、雄朝津間皇子もとても嬉しそうな笑みを浮かべた。

「あぁ、こんな時間に本当に済まなかった。じゃあ、これで失礼するよ」

そう言って彼は、自分の部屋へと帰って行った。


そんな彼の後ろ姿を見送って、忍坂姫はとても幸せな気持ちになった。

(明日は本当に楽しみね。じゃあ今日は早く寝る事にしましょう)

そして彼女は部屋の中へと戻っていった。





その頃、雄朝津間皇子は忍坂姫の部屋から自分の部屋に戻る為、外を歩いていた。
ふと空を見上げると、月が白く綺麗に輝いている。

「とりあえず仲直りは出来たみたいだ。ずっと気まずいままなのは、流石にしんどい」

雄朝津間皇子はそんな事を思いながら、部屋へと戻って行った。