「最初大王から君との婚姻の話しを聞いた時、あのお転婆娘は流石に無理だと、正直思ったぐらいだからね」

それを聞いた忍坂姫(おしさかのひめ)は一瞬頭が真っ白になった。雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)が最初自分との婚姻を断った原因が、まさかそんな理由だったとは。

「そ、それは昔の事であって。今はそんなんじゃないです……多分」

(わぁー、本当に最悪だわ)

忍坂姫はだんだん泣きそうになって来た。どうしてこんな性格で自分は生まれてしまったのか。

そんな表情の彼女を見て雄朝津間皇子は言った。

「でも、確かに昔の君とはちょっと違うみたいだね。もし君が昔のままだったら、市辺がこんなに懐かなかっただろうし」

そんな忍坂姫に対して彼は少し興味を覚えた。
市辺皇子(いちのへのおうじ)がここまで懐くと言う事は、それだけ彼女の内面が素直で優しく、とても女性らしいのだろう。

(雄朝津間皇子……)

忍坂姫は雄朝津間皇子にそう言われて、何とか涙を押さえる事が出来た。

そんな様子を見ていた市辺皇子が、急に忍坂姫の服を引っ張って、話し掛けて来た。

「僕何かお腹空いてきた。ねぉ忍坂姫一緒にご飯食べに行こうよ~」

皇子は宮の中を色々歩きまわったので、お腹が空いてきたようだ。

「まぁ、それは大変。雄朝津間皇子、市辺皇子と一緒に食事に行って来ても良いですか?」

どうやら、忍坂姫は本気で市辺皇子に気に入られてしまったみたいだ。

「あぁ、それは構わないさ。俺も朝が早かったら、軽く食事でもするか。じゃあ市辺、俺も一緒に食べる事にするよ」

それを聞いた市辺皇子は少しムッとした。

「えぇ~僕は忍坂姫と食べたいの。叔父上は邪魔しないでよ」

そう言って市辺皇子は忍坂姫にぎゅっとしがみついた。

市辺皇子はどうも忍坂姫に甘えたい気分なのか、雄朝津間皇子が少し邪魔な存在に思えたみたいだ。

「か、可愛い~」

それを聞いた忍坂姫は、思わず市辺皇子を抱き締めた。

「じゃあ2人でご飯食べに行きましょうか」

(へぇ?)

雄朝津間皇子は思わず言葉を失った。

「うん、じゃあ忍坂姫は僕の妃だね」

市辺皇子はニコニコしながら彼女にそう言った。彼女からしたら市辺皇子は本当に愛くるしい皇子だ。

(もぅ、本当になんて可愛い皇子なの)

忍坂姫は市辺皇子にそう言われてかなり上機嫌だ。

幼い市辺皇子の思考ははっきりとはしないが、親を早くに亡くしている為か、夫婦や親子間の関係がやや曖昧なのかもしれない。

そんな市辺皇子の発言を聞いた雄朝津間皇子は、妃と言う発言に少し動揺した。

(何だろう、この状況。過去にも少し似たような事があったような……)

「じゃあ雄朝津間皇子、私市辺皇子と一緒に食事に行ってきますね」

そう言って忍坂姫は、市辺皇子と一所にスタスタと歩きだした。

それを見た雄朝津間皇子は慌てて2人を追いかけた。

「こらぁ、ちょっと待てって!」

そしてその後、何とか市辺皇子の機嫌を取って、3人で無事に食事をする事が出来た。