「いえ、こちらこそ。まさか昨日助けて頂いた方が雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)とは思っても見ませんでした」

まさか大和の皇子が盗賊退治をするなんて、誰が思うだろうか。それに剣の扱いにもかなり慣れていて、そんじょそこらの兵より強いのではとさえ思った。

「とりあえず、改めて挨拶するよ。俺は今の大王の弟に当たる雄朝津間だ。この度はわざわざこの宮に来てもらって済まない。何分今回の件は、君のお父上と大王との間で勝手に話しが進んでいたもので」

それを聞いた忍坂姫(おしさかのひめ)はふと疑問に思った。今の話しだと、今回の婚姻の件は雄朝津間皇子自身は了承していないと言う事なのだろうか。

(確かお父様も、大王から了承を貰ったとしか言って無かったわね)

「あのう、雄朝津間皇子は今回の婚姻の件、ご了承されて無かったと言う事ですか?」

彼女はその事がきになって、思わず皇子にその疑問を聞いてしまった。
横では衣奈津(いなつ)も信じられないと言った表情で聞いていた。

「うーん、その件は……悪いけど、忍坂姫と2人っきりで話しをさせて貰えないかな」

彼はそう言うなり、家臣達に部屋から一旦出て行くよう指示を出した。そしてそれは衣奈津達も同様だった。

そして家臣や衣奈津達が出ていったの確認すると、皇子は忍坂姫に話しを始めた。

「今回の件だけど、最初大王から話しがあった時、俺はこの婚姻は断ると言ったんだ」

「え、断った?」

それを聞いた忍坂姫はとても信じられないと思った。大王からはそんな話しは全く聞いていない。

「ただそれを言ったら既に君の父上には了承したと伝えていたらしく、しかも君がこの宮に来る話しまで進んでいてね。
それで渋々了承させられたと言うのが本音なんだ」

彼女は凄い頭を殴られたような衝撃を受けた。では何の為にわざわざ自分はこの宮に来たのだろうか。

「では、皇子はこの婚姻の話しは始めから断るつもりでいたと言う事ですね」

(あぁ、何て事なの。確かにこの婚姻は強制的な物ではないとは言っていたけど)

「君にはここまで来てもって本当に申し訳ない。しかも大王からの提案で、1ヶ月もの間この宮で過ごして貰う事になってしまった。
だからそれに関しては、その期間はこの宮にいて貰って構わない。その後大王には俺の方から、この婚姻は無かった事にして貰うよう伝えるよ」


皇子にそう言われて、忍坂姫は何も言葉が出て来なかった。
こうやって対面までしても、彼の気持ちは変わらないようだ。