「まぁ、今後の大和の将来を考えると、君には是非とも沢山子供を産んで貰いたいしね」

雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)は、少し愉快そうにして言った。自分の母親も皇子を4人産んでいるので、彼女にもそれぐらい産んでもらえたら、後継者問題で悩む必要は無くなるだろう。

だがそんな彼の発言を聞いて、忍坂姫(おしさかのひめ)は思わず顔を赤くした。

(まさか皇子の宮に行ったら、凄い子作りに励む事になるのかしら？)

「あのう、雄朝津間皇子。まさかこんなに早く一緒に住もうと思われたのは、それが理由なんですか？」

それを聞いた雄朝津間皇子は、思わず吹き出して笑った。

「まぁ、それも理由の一つかも知れないね」

彼的には、自分の側に置いておけば余計な心配をしなくて良いと思ったのが元々の理由だが、子供云々も嘘ではない。

「はぁ、そうですか」

(私、本当に大丈夫なのかしら……)

忍坂姫はそんな皇子の発言を聞いて、少し心配になってきた。

そんな彼女を見て、彼は優しく言った。

「まぁ、そっちの件は、ぼちぼちやっていったら良いよ。凄い焦っている訳でもないしさ」


それから2人は、そこから見る景色を何となく見ていた。
これから本格的な夏がやって来ようとしている。

「あ、そうだ！これもまた俺のお願いなんだけど」

「え、お願い事？」

忍坂姫は何だろうと、思わず顔を上げて皇子を見た。今はまだ彼に抱きしめられている状態だ。

「そのう、前に君が皆の前で舞を舞ってくれただろう？あの舞を来年の春が来たら、また見たいなと思ってね。出来れば俺1人の前で……」

それを聞いて彼女は思った。舞なんて別に一年中いつでもやれる。でも彼はあえて春にやる舞が見たいのだろう。しかも彼自身の為だけに。

(まぁ、それは別に構わないけど。皇子がそうして欲しいと言うのなら)

彼女はそう思うと、彼の首に腕を回して、彼と同じ目線にしてから言った。

「分かりました、雄朝津間皇子。皇子が見たいとおっしゃるなら、私やります。どうせなら桜の木々が沢山生い茂ってる所で」

忍坂姫は笑顔でそう彼に言った。

「あぁ、きっとだぞ。俺だけの舞姫になってね」

彼もそんな彼女がとても愛しく思えた。
そして今度こそは、あの桜の木々の下に降り立った花の女神を、一人占めしようと思った。

それから2人は互いの顔を近づけて、口付けを交わした。
そしてその後は、そのままその場に倒れ来んでいった。




それから月日がどんどんと流れて行き、雄朝津間皇子の希望通り、2人の間には男女含めて9人もの子供が授かった。

だがこれが、新たな波乱を巻き起こす事になろうとは、その時の2人は考えもしていなかった。


そしてその中に、新たな時代を切り開いていく1人の青年が誕生する事となった。


「この国の繁栄の為には、より強力な統治をして行かないとけない。それが俺に与えられた使命なのか......」


　　　　　　　 　　END