忍坂姫(おしさかのひめ)は宮の近くの草原にまたやって来ていた。春も過ぎて、これから暑い夏がやってこようとしている。

「はぁ、今日ものどかだわ。こんな日はまたここで日向ぼっこでもしたくなる」

忍坂姫はふとそんな事を思ってみた。

雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)との婚姻が決まって以降、彼は割と律儀に自分の元に通って来てくれていた。
彼的にはやっと思いが通じたので、少しでも沢山彼女に会いたいと思っているのであろう。

「忍坂姫、何で君はいつもこうなんだよ」

彼女がその声を聞いてその先を見ると、雄朝津間皇子が自分の元にやって来ていた。

「あらやだ。雄朝津間皇子、もう来られていたんですね」

雄朝津間皇子は彼女のそばまで来ると、横に座って腰かけた。

「てっきり、宮で俺の事を待っていてくれると思ってたのに」

彼は少しムッとしていた。
今日は3週間ぶりに来れたので、もう少し彼女に歓迎して貰えると思っていたみたいだ。

「皇子、本当にごめんなさい。その、次回からは気をつけます……」

雄朝津間皇子からすると、彼女のその発言はかなり疑わしいと思えた。

「まぁ、別にもう良いよ。それに君のその発言も、余り説得力が無いしね」

雄朝津間皇子には、彼女の行動はどうも全てお見通しのようだ。

(でも、言ったからには一応努力はしてみよう)

忍坂姫はそう思う事にした。

すると雄朝津間皇子は、彼女の腰に手を回して彼女との距離を近付けた。
彼にとってのこの3週間は本当に長かった。

「とにかく、やっと君に会えたよ……」

雄朝津間皇子はそう言って、彼女の頬に軽く口付けて、それから優しく彼女を抱きしめた。

忍坂姫も彼に抱きしめられて、そのまま彼の胸に思わず持たれた。
今の自分は本当に幸せだなと思う。

「それでだ。君と婚姻して、俺の宮に住む日程がだいたい決まったよ」

忍坂姫はそれを聞いて、思わず皇子の顔を見た。すると彼はとても優しそうな表情で彼女を見ていた。

「まぁ、そうなんですね。それは本当に良かったです。でも私的には、皇子がこうやって自分に会いに来てくれるのも嬉しかったんですが」

「まぁ、別にそれでも問題はなかったんだけどね。でも妃はどうせ君一人だけだし、それなら初めから一緒に住んでも良いかと思ったんだ」

皇子の彼と一緒に住むと言うことは、彼女は正妃の扱いだ。彼からしてみれば、それは当然と言う所であろう。