「君と知り合った当初は、君の事は本当に何とも思ってはいなかった。
それが変わりだしたのが、七支刀の事件の後に君を傷付けてしまった時だった。君に嫌いと言われてしまい、その一言に対して凄いショックを受けたんだ」

(あの時、そんなに皇子が傷付いていたなんて私全然知らなかった……)

そして彼は続けて話した。

「それでその時、自分は君に好かれたいと思っている事に気が付いたんだ。
でも今までの俺は相手から言い寄られるばかりだったから、どうすれば君を振り向かせられるかが全く分からなかった。
それに君は、俺みたいなやつよりも、もっと誠実な男を好いてるようだったしね」

それから彼は彼女の手を握って、そして彼女の顔をじっと見つめて言った。

「だが、日に日に君への想いは強くなる一方だった。でも今の自分では、君をこの1ヵ月の間だけで振り向かす自信がどうしても持てなくてね。
なのでこの期間が過ぎたら、期間を延長出来ないかと考えていた」

「え、延長!?」

彼女は驚いた。彼が宮で期間について余り気にしていなかったのは、その為だったのだろうか。

「そう。とりあえず君には、俺の宮での滞在期間を延ばすか、もしくは俺が君の宮に通っても良いと思ってた」

「皇子が、私の元に?」

(これは本当に意外な話しだわ。まさかそこまで皇子が考えてくれていたなんての?)

それから雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)は彼女を自分の方へ向かせて言った。

「忍坂姫、これからは君だけを一生愛すると誓う。だからお願いだ、どうか俺の妃になってくれないか」

それを聞いた彼女は、ふと大王の妃である彼女の事が浮かんだ。

「でも、皇子が本当に好きなのは佐由良(さゆら)様ではないんですか?」

彼女にそう言われて、彼は少し「あぁ、その件か」と思い出したようだ。

「その件についてもちゃんと説明する。確かに彼女の事は昔好きだったし、妃にしたいと言ったのも本当だ。
でもだからといって、彼女を今の大王から奪おうなんて事は全く思ってない。
彼女が大王の傍で幸せでいてくれたらそれで良いと思ったんだ」

それから一息置いて、彼は続けて話した。

「だが、君は彼女とは違う。君が他の豪族の皇子との婚姻が決まったと知った時、本当に腹が煮えくりかえる思いだったよ。
それなら、無理矢理にでも君を自分のものにしてしまおうかとさえ考えた」

それを聞いた彼女は思わず動揺した。
今まで割り切った関係を望んでいた彼からはとても想像がつかない。

(雄朝津間皇子がまさかそこまで想ってくれていたなんて)

「俺が今本当に一番好きなのは佐由良じゃない。忍坂姫、君なんだよ」