そして今にも部屋から飛び出しそうな雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)を見て、瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)は止めた。

「おい、雄朝津間。お前に一言だけ言っておきたい事がある」

「兄上、何だよ。言っておきたい事って」

雄朝津間皇子は早く部屋を出て行きたくてウズウズしていた。

「お前が、どうやって彼女を説得しようとしているかは分からない。だがこれだけは言ってやれる。
相手に自分の気持ちを伝えたいなら、それをはっきりと言葉にして言え。これは昔稚田彦から言われた事だ」

それを聞いて彼はふと思った。

「ふーん、兄上はそれを言って佐由良(さゆら)と上手くいったって事?」

彼のまともな恋愛対象となったのは、恐らく彼女ぐらいだろう。

「あぁ、その通りだ」

瑞歯別大王もそうあっさりと答えた。

(なる程ね。兄上も通った道と言う事か)

「何か結局、俺と兄上は似た者同士なのかもしれないね。とりあえずその忠告は有り難く受け取るとするよ。じゃぁ、行って来る」

そう言って雄朝津間皇子はその部屋を飛び出して行った。


そんな彼を見て瑞歯別大王は思った。

「6年前の自分の時と、全く同じ感じになったな」

何とか弟の恋が無事成就するよう、あとは願うばかりだ。
でも何となく今回は上手く行くような、そんな気がしていた。