「本当にこの件に関しては、勝手に進めて悪いとは思ってる。だがこれもお前の為を思って了承したんだ」

そう言って瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)に頭を下げた。いくら兄でも相手は大王だ。そんな大王に頭を下げさせるのは流石に悪い気がする。

「もう、分かったよ。その忍坂姫(おしさかのひめ)に会えば良いんだろ。多分断る事になると思うけど……」

彼は結局諦める事にした。
それに大王も自分の事を思っての事だと言うのは理解した。
それで会ってみて嫌なら断れば良いだけの話しだ。そこまで困る事でもない。

「そうか、納得してくれるか。これが雄朝津間にとって良い縁談になる事を期待している」

瑞歯別大王はどうにか雄朝津間皇子に了解を貰えて、安堵した。

「ところでお前、皇太子をやってみる気にはなったか?」

(そっちの話しまで押し付ける気か)

「それは断じてお断りします!」

そう言って彼は「じゃあ、俺はこれで失礼します」と言って部屋を出ていった。


そんな弟皇子の後ろ姿を見た瑞歯別大王は、「ふぅーやれやれだ」と言ってその場で手を伸ばした。

「俺が今の妃と出会ったのは、16、17歳ぐらいの時だったな。雄朝津間もそろそろ大事な娘を見つけられると良いが。それが俺なりのせめてもの償いだからな」

大王は自分が今の雄朝津間皇子ぐらいの時の事を、ふと思い返していた。