そして雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)はいよいよ瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)と対面した。だが大王に対する不満がかなりあった為か、彼の態度は明らかに悪かった。

「で、兄上。何の話しがあるんだ」

雄朝津間皇子はブスッとしながら大王の前に座った。

「雄朝津間、お前相当拗ねてるみたいだな」

瑞歯別大王は少し愉快そうにしながら彼に言った。恐らく勝手に忍坂姫(おしさかのひめ)の婚姻を無かった事にしたから、それで怒っているのだろう。

「お前も、俺がここに来た理由は分かっているだろう?今日はその話しをする為にわざわざ来たんだ」

雄朝津間皇子からしてみれば、大王は全てお見通しと言うのがどうもしゃくにさわるが、とりあえずここは彼の話しを聞いてみるほか無かった。

「じゃぁ、その話しを早く聞かせろよ。宮に戻ったら彼女はいなくなっているわ、婚姻が無かった事になってるわで、何が何だかさっぱりだ」

(これじゃあ、まるで拗ねた小さい子供のようだ)

瑞歯別大王はそんな自身の弟皇子を見てそう思った。

「分かった。では順を追って説明する。まず前回彼女が丹比柴籬宮(たじひのしばかきのみや)に来た時に、今回の婚姻に関する返事を聞いた。
すると彼女は今回の婚姻は無かった事にして欲しいと言ってきた。
その理由は、お前をずっと好きでいられる自信がないとの事だ。そしてそれ以上の事は言えないとも言っていた」

それを聞いて彼は思った。やっぱりあの彼女だ。自分との婚姻を断った理由がいまいち良く分からない。

「何んだ、その理由は?しかもそれ以上は言えないって」

彼はその場で思わずため息をついた。

「お前とも仲良くやっているように見えたし、てっきり彼女もお前を好いているとばかり思ってた。だがその後泣き出した彼女を見てそれ以上はよう言えなかったよ」

「まぁ、彼女らしいと言えば、それまでだけど」

一体彼女の頭の中では何が起こっていたのだろう。何か心配事があるなら、自分に相談してくれれば良かったのに。

「で、その後なんだが。これはその時に聞けなかったので、翌日聞いた話だ。この婚姻の件はどうやってお前に話そうかという事になった。
彼女もとても辛そうだったから、彼女にはお前が宮に戻る前に、自分の宮に帰ってもらう事にしたんだ。お前には俺が説明すると言ってな」

そこまで聞いて、とりあえずこれまでの経緯は理解出来た。であればもう少し早く知らせに来て欲しかったとも思った。だが相手は大王なので、彼も色々と忙しかったのだろう。

ただ2週間経って自分もだいぶ落ち着いたので、ある意味では今日で良かったかもしれない。