雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)忍坂姫(おしさかのひめ)が自分の宮に帰った事を聞いてから、2週間が過ぎていた。

雄朝津間皇子は突然忍坂姫がいなくなってショックが大きかったのか、とにかく元気がない状態で、宮の管理や外への視察等も本当に最小限の事しか出来ないでいた。

(何かどうもやる気が起きないんだよな)

皇子は思わず「はぁー」と溜め息を付いていた。彼の溜め息の多さは日に日に増えている。

同じくこの宮にいる市辺皇子(いちのへのおうじ)も、忍坂姫がいなくなって寂しがっているかと思いきや、彼は今度忍坂姫に会いに行く約束をしているらしく、それを楽しみにしているようだった。

そして今日は、瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)がこの宮に来る事になっていた。

「兄上のやつ、今さら何の用があるって言うんだ。彼女と兄上で勝手に話しを進めやがって。俺の気持ちは聞かなくて良いのかよ」

だが実際、大王に聞けば忍坂姫がどうして自分との婚姻を辞退したかの理由は分かるだろう。

「まぁ、彼女の場合、やる事が極端だからな。また勝手な思い込みでさっさと宮に戻ったり……いや、まてよ。それはあり得る話だな」

雄朝津間皇子はふとそんな事を思った。彼女は思ったら真っ直ぐそのまま突き進む傾向がある。

となると、やはり大王から事情を聞いた方が良いかも知れない。大王よりかは自分の方が彼女の事はよく分かっている。

「はぁ、仕方ない。兄上に聞いてみるか」

こうして、雄朝津間皇子は覚悟を決めて瑞歯別大王と会う事にした。