忍坂姫(おしさかのひめ)は思った。確かに今後の大和の将来を考えるなら、その候補者が少なくなるのは問題だ。

「そうね、私も皇族です。だから自分の婚姻も半分親が決めるものだと思ってましたし」

忍坂姫は急に重たい話しになって黙り込んでしまった。

「まぁ、今の話しはあくまでこのまま行ったらの話しです。
今の大王に長く生きてもらって、佐由良(さゆら)様との間に皇子が生まれたり、市辺皇子(いちのへのおうじ)が成人すれば、そんな彼らも候補に入る可能性は高いでしょうから。
それに大王の父親である大雀大王(おおさざきのおおきみ)には他にも后がいて、その間の子供もまだ若いですが若干いますので……
済みめせん、こんなややこしい話しをしてしまいまして。まぁ、この事は頭の片隅にでも置いといて下さい」

稚田彦(わかたひこ)とそんな話しをしていると、気が付いたら雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)の宮に戻って来ていた。

そして彼は忍坂姫を宮の前で降ろした。

「稚田彦、本当に今日は有り難う」

忍坂姫は彼にそうお礼を言った。

「いえいえ、私も忍坂姫とは一度じっくり話しをしてみたかったので、本当に良かったです。では私はこれで失礼しますね」

そう言って、彼は瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)の元へと戻って行った。


「それにしても、色々と凄い話しを聞いたわね。稚田彦の妻の話しはとても感動的だったけど、その後の大和の後継者問題は、何だかとても重みを感じたわ」

忍坂姫はふと、雄朝津間皇子の事が脳裏に浮かんだ。今後の彼の人生はどのようなものになるんだろうと。

「さぁ、宮に戻って来た事だし、部屋の中に戻りましょう」

そう言って忍坂姫は部屋の方へと向かった。





それから暫くして、稚田彦も自分の家へと戻ってきていた。

(でも今日は忍坂姫に皇族の話しが出来て本当に良かった。でもまさか自分のことまで話す事になるとは思わなかったが)

稚田彦が家に戻ると彼の子供が出迎えてくれた。そして彼は子供達の頭を撫でてやった。

「お前達、良い子にしてたか?」

するとさらに1人女性がやって来た。

「あら、あなた戻ったのね。何でも今回は色々大変だったんでしょう?」

彼女は少し彼の事を心配しているようだった。

「あぁ、心配ないよ。胡吐野(ことの)の方も特に何も無かったか?」

すると胡吐野と呼ばれた彼女は笑顔で答えた。

「えぇ、特に問題事は何も無かったわ」

稚田彦はそう言われて安心した。

自分はこの家族を今後も守っていかないといけない。そう彼は改めて心に誓ったのであった。