椋毘登との出来事があった翌日、稚沙は朝からずっと放心状態だった。
そしてこの日の彼女の仕事ぶりは、本当に悲惨である。
指示の聞き取りのまちがいに始まり、物をうっかり落として壊してしまう。そしてその挙げ句に、大事な書物の送り先をまちがえて、危うくもう少しで送り出される所でもあった。
そんな彼女の余りの失敗の多さに、周りの女官達も、さすがにあきれてしまう。
そこで今日は、彼女には掃除と荷物の運びのみをさせることにした。
「はぁーこんなんじゃ、いつまでたっても、一人前になんてなれない……」
彼女はそんなことをボヤきながら、両手で荷物を持ち、倉庫に運んでいた。
すると目の前に、彼女が昨日見かけた糠手姫皇女の姿があった。
彼女は炊屋姫の提案で、数日間だけ小墾田宮に滞在することになっている。
(さすがに、私が声をかける訳にもいかないか……)
だが糠手姫皇女の方が稚沙に気付いたらしく、彼女はいきなり稚沙の元にやってきた。
「あなた昨日、椋毘登と一緒にいた子よね?あと炊屋姫の大殿にも顔を出していた」
彼女は昨日の雰囲気と違って、今は割と気さくな感じで稚沙に話しかけてきた。
「はい、ここ小墾田宮に女官として仕えてまして、名を稚沙と申します」
稚沙は思わず、頭を下げて彼女にあいさつをした。
「あなた、稚沙っていうのね。昨日は恥ずかしい所を見せてしまって、本当にごめんなさい。あなたの横に椋毘登がいたものだから、もう必死だったのよ」
昨日ならまだしも、自身の気持ちに気付いてしまった彼女である。糠手姫皇女の椋毘登に対しての話しは、正直余り良い気がしない。
「ねぇ、折角だし少しお話しない?」
彼女にそういわれた稚沙は、内心困惑する。
(どうしよう、でも相手は皇女だし。まぁ今日は仕事も失敗続きで、余り仕事をたくさん任されてはいないけど……)
稚沙がどうしたものかと悩んでいたそんな時である。
「おーい、稚沙ー!」と誰かが彼女の名前を呼んだ。
2人は思わずその相手の顔を見る。そこにいたのは蘇我蝦夷だった。
「あ、蝦夷?あなた今日来ていたの?」
蝦夷はそのまま稚沙達の元にやってきた。そして彼女のとなりにいる糠手姫皇女を目にし、とても驚く。
「あ、あなたは糠手姫皇女?」
「蝦夷久しぶりね。私も昨日から小墾田宮に来ていたのよ」
どうやら糠手姫皇女は、蘇我蝦夷とも顔見知りのようだ。
「でも、あなたは婚姻問題で今色々と大変なはずでは?」
「えぇ、それはそうなのだけど……」
彼女はどうも自分から事情を話すのが恥ずかしいようで、中々言葉が出てこない。
そしてこの日の彼女の仕事ぶりは、本当に悲惨である。
指示の聞き取りのまちがいに始まり、物をうっかり落として壊してしまう。そしてその挙げ句に、大事な書物の送り先をまちがえて、危うくもう少しで送り出される所でもあった。
そんな彼女の余りの失敗の多さに、周りの女官達も、さすがにあきれてしまう。
そこで今日は、彼女には掃除と荷物の運びのみをさせることにした。
「はぁーこんなんじゃ、いつまでたっても、一人前になんてなれない……」
彼女はそんなことをボヤきながら、両手で荷物を持ち、倉庫に運んでいた。
すると目の前に、彼女が昨日見かけた糠手姫皇女の姿があった。
彼女は炊屋姫の提案で、数日間だけ小墾田宮に滞在することになっている。
(さすがに、私が声をかける訳にもいかないか……)
だが糠手姫皇女の方が稚沙に気付いたらしく、彼女はいきなり稚沙の元にやってきた。
「あなた昨日、椋毘登と一緒にいた子よね?あと炊屋姫の大殿にも顔を出していた」
彼女は昨日の雰囲気と違って、今は割と気さくな感じで稚沙に話しかけてきた。
「はい、ここ小墾田宮に女官として仕えてまして、名を稚沙と申します」
稚沙は思わず、頭を下げて彼女にあいさつをした。
「あなた、稚沙っていうのね。昨日は恥ずかしい所を見せてしまって、本当にごめんなさい。あなたの横に椋毘登がいたものだから、もう必死だったのよ」
昨日ならまだしも、自身の気持ちに気付いてしまった彼女である。糠手姫皇女の椋毘登に対しての話しは、正直余り良い気がしない。
「ねぇ、折角だし少しお話しない?」
彼女にそういわれた稚沙は、内心困惑する。
(どうしよう、でも相手は皇女だし。まぁ今日は仕事も失敗続きで、余り仕事をたくさん任されてはいないけど……)
稚沙がどうしたものかと悩んでいたそんな時である。
「おーい、稚沙ー!」と誰かが彼女の名前を呼んだ。
2人は思わずその相手の顔を見る。そこにいたのは蘇我蝦夷だった。
「あ、蝦夷?あなた今日来ていたの?」
蝦夷はそのまま稚沙達の元にやってきた。そして彼女のとなりにいる糠手姫皇女を目にし、とても驚く。
「あ、あなたは糠手姫皇女?」
「蝦夷久しぶりね。私も昨日から小墾田宮に来ていたのよ」
どうやら糠手姫皇女は、蘇我蝦夷とも顔見知りのようだ。
「でも、あなたは婚姻問題で今色々と大変なはずでは?」
「えぇ、それはそうなのだけど……」
彼女はどうも自分から事情を話すのが恥ずかしいようで、中々言葉が出てこない。