そして数日後、今日は糠手姫皇女(ぬかでひめのひめみこ)小墾田宮(おはりだのみや)に来られる日である。

 稚沙(ちさ)が宮の中を歩いて移動していると、何人かの集団が歩いてきているのが見えた。そしてそんな彼らは、どうやら大殿(おおどろ)へと向かっているようだ。

 そしてその中には、10代ぐらいの少女が1人いるのも見える。

「あ、もしかしてあの人が糠手姫皇女?何とも綺麗な皇女ね」

 その少女は色白で、とてもか弱い感じの女性に稚沙は見えた。自分がもし皇子の立場なら、確かに妃にしたいと考えるだろう。それぐらい本当に美しい皇女で、稚沙もそんな彼女に思わず見入ってしまった。

(きっとこれから、炊屋姫(かしきやひめ)様の元に行ってお話をされるのね)

 稚沙はその話しがとても気になるが、呼ばれもしていない自分がその場にいく訳にはいかない。

(うーん、やっぱりちょっと気になる)

 そんな時である。1人の女官が彼女に声を掛けてきた。

「稚沙、ちょっと悪いけど。炊屋姫様が、今日届いた木簡を見たいそうなの。持って行って貰える?」

(え、今から?)

 炊屋姫はこれから糠手姫皇女と話をするはずだ。それなのに木簡も一緒に読むつもりなのだろうか。

「でも今日は糠手姫皇女が会いに来られてるのに、大丈夫なんですか?」

「えぇ、何でも急いで読みたいらしいわ。糠手姫皇女とは少し話をするだけだから、構わないそうよ」

 彼女はそれを聞いて思った。それなら炊屋姫に木簡を渡したのち、大殿の外に隠れて2人の話を聞けないものかと。

「分かりました。では急いで炊屋姫の元に木簡を持って行ってきますー!」

 彼女はそういうと、大急ぎで一旦木簡を取りに倉庫に行き、そのまま大殿へと向かった。