そして彼らはいよいよ小墾田宮(おはりだのみや)に辿り着くこととなる。
 その日は皆、そのまま長旅の疲れを癒すことにした。


 そんな中小野妹子(おののいもこ)は、厩戸皇子(うまやどのみこ)の元へと向かった。この日は厩戸皇子もここ小墾田宮にやって来ているようだ。

「厩戸皇子、只今戻りました」

 小野妹子は皇子を前にしてそういうと、手を前で揃えて、軽くお辞儀をした。

「あぁ、妹子。良く無事に戻ってきてくれた」

 厩戸皇子もそういって、彼の帰還に対しとても喜んだ表情を見せる。

 この度の隋への派遣は、そんな簡単なものではなく、この国の今後の将来にも多く影響をもたらすものであった。
 なので彼もまた、今回の派遣が無事成功するよう、日々神へ祈りを捧げていた。

「はい、皇子のお話のように、隋はかなりの大国でした。そして隋の皇帝は、ひどくご立腹されていたご様子……ですが何とか上手く取り次ぎさせて頂き、隋からの客人をお連れすることが出来ました」

 小野妹子もとても穏やかにして、そう答える。

 これ程の任命を任せられるのは、この小野妹子以外にはいないと厩戸皇子も考えていた。彼はとても有能であるだけでなく、とても物腰の柔らかい青年だ。

 厩戸皇子は思わず小野妹子に歩み寄り、両手で彼の肩をつかんでいった。

「とにかく、お前が無事に帰ってきてくれて、本当に良かった。これでまた一歩この国を、前進させることが出来るだろう」

 厩戸皇子はとても嬉しそうにしながら、彼にそう話す。

「はい、皇子のおっしゃる通りです。今回の派遣は、我が国にとって大変意義のあるものでした。引き続き、皇子の掲げる治世を目指してまいりましょう」

「本当に妹子のいうとおりだな!」

 そして厩戸皇子が妹子の肩を離し、2人は互いに両手でガッチリと握手を交わした。

「ところで、皇子。ここにくるまでに、それなりに飛鳥の現状は聞いております。やはりまだまだ豪族達の影響が強いようですね……特に蘇我馬子(そがのうまこ)に権力が集中していると?」

「あぁ、だがまだ大和の力だけで、この国をまとめていくのは難しい。だからこそ、他国の政治や仕組みを色々と学んでいきたい」

 厩戸皇子はひどく真剣な目で、小野妹子にそう話した。これは彼が余程心を許している者にしか見せない表情だ。

「厩戸皇子……あなたという方は」

 彼は人前ではとても穏やかで優しく、皆に平等に接している。だが実際の彼は、この国のことを誰よりも真剣に考えていた。
 そして彼は、そんな他の人にない情熱を、いつも心の内に秘めているのだ。

 彼の目には、まるで今後の倭国の未来が写し出され、先々を見越して動いているようにさえ思えてくる。

(厩戸皇子は、神がこの国にもたらした奇跡のような人だ。きっとこの国はこれから、さらに良くなっていく事でしょう……)

 その後2人は、互いに近況の報告をし始めた。
 倭国や他の国でも、日々国の現状が変わっていっている。やはりこの国も、もっとしっかりとした体制を作っていかなければならないのだろう。