そしていよいよ当日となり、今は丁度夕方に差し掛かろうとしている時間帯だ。

 ちなみに稚沙は、今日はいつも通りに仕事をするようにと、椋毘登(くらひと)から指示を受けていた。

 それで今彼女は、蘇我馬子(そがのうまこ)達に用意した食事やお酒を忙しく運んでいる最中だ。今日の宴に集っているのは、馬子を含めて5人程である。

 そしてそんな彼らは、稚沙達が持ってきた食事やお酒を頂きながら、話に華を咲かせているようで、かなり盛り上がっていた。

(とりあえず椋毘登の指示通り、食事やお酒に奇妙な所はなかった。毒味は怖くてよう出来ないけど……)

 椋毘登曰く、犯人達が今日どうやって蘇我馬子を暗殺しようとしているのかは分からない。
 なのでまずは、彼らに出す食べ物等をしっかり見ていて欲しいといわれていた。

 一方の椋毘登は、馬子達のいる部屋から少し離れた所で、数名の従者を連れて待機している。

 稚沙は椋毘登から、何かあれば大声を出して知らせて欲しいといわれている。もし犯人達が奇襲をかけるつもりなら、稚沙の叫び声がその合図という訳だ。

 彼女が忙しく動いていると「稚沙!」と誰かが彼女の名前を呼ぶ。

 彼女がふと振り返ると、そこには古麻(こま)がいて、彼女は追加のお酒を持ってきたようだ。

「え、古麻どうして、あなたがここに?」

 すると古麻は稚沙に近づいてきた。

「今回は私の恋人も絡んでることだし、やっぱりどうしても気になってね。なので私も一緒に仕事を手伝うことにしたわ」

 古麻の恋人が今回の暗殺に本当に関わっているのかは、正直分からない。だからこそ、彼女は自分の目で確認したかったのだろう。

「私も古麻がいてくれるのは凄くうれしい。でも余り無茶なことはしないでね」

「まぁ、稚沙。いっとくけど、私の方が少し年上なのよ。むしろあなたの方こそ無理しないでちょうだいよ。あなたは色々とそそっかしいもの」

 そういって古麻はクスクスと笑った。

 今の彼女の心境は稚沙には正直まったく分からない。
 だがそんな古麻を見て稚沙自身も、もう覚悟を決めるしかないと思った。

(よし、絶対に犯人を捕まえてやるんだから!)

 それから稚沙と古麻の2人は、一緒になって蘇我馬子達のいる部屋へと向かった。