(ふーん、彼でも多少は年相応な反応をすることもあるのね)

 稚沙は興味深く倉庫内を見渡す椋毘登(くらひと)がちょっと意外に思えた。

 その後椋毘登も、倉庫の中を一通り見れたようで、それなりに満足は出来たようである。

「とりあえず中の様子は確認出来たかな。もう十分だ」

 彼はそう稚沙に話すと、倉庫の入り口から離れて、古麻(こま)の所まで戻ってきた。

「椋毘登殿は、今日この宮に泊まられるのですか?」

 古麻は少し気になったのか、そう彼に尋ねた。

「正直、今日は元々その予定ではなかった。ただせっかくだし、もう少し色々と見てみたい。なので宮の人には、これからお願いしてみるよ」

 彼は笑顔で古麻にそう話した。

 何故だか分からないが、椋毘登は古麻には妙に親切な感じに稚沙は思えた。

(何か私とは態度が少し違うような……)

 それから彼は「じゃあ、これからその話をしに行ってくる」といってその場を離れていった。

 稚沙と古麻はそんな彼を、そのまましばらく見送っていた。


 彼が見えなくなると、古麻が稚沙に話しかけてきた。

「まさか、蘇我の方が来られていたなんて。しかも馬子様の甥の方が……蝦夷(えみし)様もお忙しいのかしら?」

 蘇我馬子の代理となれば、本来は彼の息子である蘇我蝦夷(そがのえみし)が来そうな感じである。となると、椋毘登はそれだけ重要視されているのだろうか。

(そういえば前に、彼が蘇我馬子(そがのうまこ)と話しているのを聞いた時も、彼はとても必要とされてる感じだったわ。一体どうしてなんだろう?)

 稚沙には今一そこは理解できない。

「本当にどうしてなんだろう?前に見かけた時も、今後は炊屋姫(かしきやひめ)様や厩戸皇子(うまやどのみこ)とは会う機会が増えるともいっていたし」

「まぁ、稚沙ったら。椋毘登殿といつそんなに仲良くなっていたの?これは本当に意外だわ」

 古麻は少し意地悪な感じで、稚沙にそう話した。

「べ、別に仲良くなんてない!前回はたまたま知り合っただけだし……それに彼、古麻との方が楽しそうに話していた感じじゃない?」

 稚沙は少し拗ねた口ぶりで、古麻にそう話す。

「まぁ、確かにそうよね。でもそれは仕方ないでしょ?私は稚沙より年上だし、それに私の方が美人だわ」

 古麻は少し愉快そうにしながらそう話す。

 稚沙も古麻の方が自分よりも美人なのは確かだと思っている。なので彼女がいうように、これはどうしようもない。

(古麻は私と違って、顔立ちも割りと整ってるし、それに女性としての色気もあるから……)

 自分も彼女のような容姿で生まれていたら、どれほど良かった事だろう。稚沙は目の前にいる古麻を見て、ついついそんな事を考えてしまう。

(もしかして椋毘登も、古麻のような綺麗な娘には優しくするの?)

 これに関しては何とも皮肉に思うことだが、こんな事に腹を立てても虚しいだけである。

「はい、はい、それは分かりました。で、これから古麻はどうするの?」

 今は余りここで雑談ばかりはしていられない。早くこの倉庫を何とかしなければ。

「そうね、とりあえず私は倉庫の掃除の続きをするわ。稚沙も手伝ってくれる?」

「うーん、そうね。今日はそこまで忙しくないし……それなら他の女官に話してから、またここに戻ってくることにするわ」

 こうして2人はその後、他の者達と一緒に倉庫の片付けに取りかかることにした。