「友達がほしいんです。小学校に入る時に習う歌に友達100人できるかな、ってあれ拷問ですよね。保険会社の営業の仕事をしているんですけれど、友達もいないし、このままじゃクビです」
 マシンガントークをする男の様子を見て、二葉はこの男、友達ができないタイプだなと感じていた。一方的に話をするけれど、相手に話をさせる間合いを作らない典型的な一方通行男という感じだった。一般的に言うとウザイタイプだ。

「はい、どうぞ」
 注文を聞かずに神酒は美しいカクテルを差し出す。

「これ、なんというカクテルですか?」
 はじめて、神酒に対して話す機会を与える男。

「青空と夕焼けのカクテルです。友達がたくさんできる効能がありますよ」
 この手のタイプには一方的に話させて、その会話の内容でその人に合ったカクテルを作るというのも神酒らしい手法だった。
 接客業は相手を見て柔軟に対応する。マニュアルにとらわれてはいけない、人間対人間なのだから。という教えを二葉に言っていたが、神酒はどんな相手にも柔軟に神対応をする。

 そのカクテルは二層になっており、上の部分が青空を表しているようで澄んだブルーだ。下の部分は夕焼けを表しているらしくレッドの色合いだ。

「一番下に沈んでいるのはなんですか? そして、グラスのふちには綿菓子ですかね?」
 マシンガントーク男が珍しく質問をする。それくらい見た目も変わったカクテルだった。

「レッドの部分には夕焼けジャムを入れております。ブルーの上には綿菓子を雲に見立てて創作致しました。これを飲めば、みんな友達ですよ。嘘だと思って飲んでください。この店にいるお客様とまずはお友達になれると思いますよ」

「またまた、うそでしょ?」
 男は冗談だと思い笑みを浮かべながらカクテルを飲む。美しいカクテルに魅せられた客の一人がさっそく男の隣の席にやってきて話しかける。

 このカクテル何ですか? からはじまり、男はなんと保険の営業を取り付けたのだ。そして、その人の友人もちょうど保険を検討しているということで、この後、このバーに来ることになった。

「まさに絶好調ですね。友達ができるカクテルって営業マンには無敵カクテルじゃないですか?」
 二葉が神酒に話しかける。

「友達って多ければ多いほどいいってもんでもないですけどね」
 意外と冷めた目で神酒は話す。
「神酒さんって友達少なそうな気もしますよね」
 二葉がにこやかに本心を言う。

 神酒は少し睨みながらも、口元だけはスマイルを心掛けているようだった。
「本当の友達がひとりいるのと、本当じゃない友達が100人いるの、どちらが幸せなのかと思うんですよね。友達という定義はあいまいです。恋愛に発展する前の友達かもしれないし、クラスや部活や出身校が一緒だっただけでも友達なのかもしれない。実に友達っていう定義はあいまいで個人の見解によるものだと思うのです」

「その深い見解が友達を遠ざけてしまっているような気がしますけれどね」
 的を得た二葉の言葉に、神酒は反論できなかった。

 ♢♢♢

 1カ月後に友達が100人できた様子の男がバーにやってきた。
「おかげさまで、友達がたくさんできました。でも、本当の友達ってなんでしょうね? 友達だから、お金を貸してくれとか、連帯保証人になってくれ、商品を買ってくれという人も結構いましてね。僕はずっと友達がいなかったから、全員と本当の友達でいたいのですよ」

「友達という定義は個人によって違いますからね。本当の友達を見分けるカクテルなんていかがですか?」
 神酒さんは、きっと色々な人間を見てきているから友達を作りたいと思っていないのかもしれない。わずらわしいことが嫌いなのかもしれない。
 二葉はそんな気がした。