ーーーー今年もまた夏がやってくる。今だに思い出すあの夏が。

見上げた日差しが、男の頬の傷を更に焼きつけるように照らす。

近くの公園からは、競うように蝉の叫び声が聞こえてくる。やかましく泣き叫び、命の限り、声を張り上げるセミは、どこか自分と似ている。

胸に、灼熱のように燃え上がる炎は、もはや手がつけられないほどの憎悪の塊となり、この身をいくら引き裂いても消えはしない。

悶え苦しみながら、血反吐を吐き、這いつくばりながら、命の限り、あの日の想いを抱き抱えながら生きていく。

誰にも言えない秘密を抱えながら、嘘の仮面をかぶり、日々を嘲笑いながら生きる人間が、花火という名の眩い光に吸い寄せられて、甘い欲望に群がる。

欲望の果ては、救いなのか、絶望なのか、それは誰にもわからない。

男は、煙草に火をつけながら、商店街から一本奥の筋を入ったところにある、自宅兼仕事場である古びた古民家のガラス戸を開ける。

20年ほど前までは駄菓子屋だったらしいが、3年前、男が借り上げた時には既にその面影はなく、外から丸見えの開閉するたびにガタつく、大きなガラス戸と、無駄にデカい木製のショーケースだけが、その名残を残しているのみだ。

男は、事務所にしている和室に上がると、以前の家主が置き去りにした、古い水屋箪笥の引き出しから掴めるだけの花火を掴んで、ショーケースに並べた。

ーーーーさぁ、仕事のはじまりだ。

パソコンには、お客様からの未読メールが一件入っていた。件名『花火屋様』から始まる文面に男は、黙々と視線を流していく。

六月と言えど蒸し暑い。男は胸元の一番上のシャツのボタンを片手で外すと、短くなった煙草を、銀色の灰皿に押し付けた。

男は、頭にこびりつく程、焼き付いている文言を丁寧に一言一句、間違えぬように打ち込んでいく。

コピーすればラクなのは分かっているが、毎回こうやって打ち込むことは、せめてもの『俺の弔い』だ。    

ポケットから2本めの煙草を咥えると、マッチで火をつける。ジュッという微かな音と共に小さな紅蓮の炎が灯る瞬間がたまらなく心地よい。

儚くその命を燃やして、塵となる人間というものに重なるから。

思い切り吸い込んで、吐き出した白い煙は、ショーケースに並べてある花火を包み込むようにして、部屋中をあっという間に白く揺らした。