ずっと抜け殻みたいになって黙り込んでいた母親が、そっと口を開いた。
 いきなり知らされた事実に、俊也は少し焦った様子で「え?」と声を漏らす。
 伝えるつもりもなかったことを急に暴露され、俺も動揺していた。
「私とお父さんのことは恨んでもいいけど、禄のことは恨まないであげて……」
「は? そんなの、俺何も知らな……」
 言い募る俊也を遮って、母親は力強く言葉を返した。
「家族だからって、何でも分かってる訳じゃないものね。俊也も……私たちも」
「え……」
「でもね俊也、本当に何も考えずに生きてる人なんて、この世界にひとりもいないのよ」
 母親の言葉に、俊也は押し黙る。
 そういえば、この言葉、幼い頃からよく言われていた気がする。
 本当にそうだ。生きることは、考えることの連続だから。
「お父さんもお母さんも禄も、いろんな事情を抱えて生きている。俊也から見たらそうじゃないのかもしれないけど、でも、そうなの」
「…………」
「だから、俊也が考えていることも、何でも教えて。全部聞くから」
 下を向いたまま、俊也は静かにはなを啜った。
 俺たち三人は、その後黙って掃除を済ませて、重い空気のまま食事を終えた。
 俊也はそれ以上何も言ってこなかったけれど、憑き物が落ちたような顔をしているようにも見えた。
 解決できたかどうかは分からない。
だけど、きっとまた明日も、どうにか日常を繋いでいける。そんな気がしたんだ。



 十二月に入った。青花が目を覚ますまで、まだ一ヶ月ある。
 俺は、それまでに仕上げたいゲームを夢中でプログラミングしていた。
 毎日毎日、時間も決めずに、キリがいいところまでやり続ける。
 青花に贈るゲームは、理想の未来を形にするゲームにしたいと思っていた。少しでも、青花に希望を持って生きてほしいから。
 まだ途中段階で失敗ばかりだけど、ゲームの内容はこうだ。
ユーザーにはひとつの島が用意される。そして、その島を開拓していく鍵は、ユーザー自身の想像力に委ねられている。花にあふれた島にするのか、全てAI化されたシステマチックな島にするのか、それはユーザーの思い描く理想の未来次第。ゲーム内にはマスコットキャラクターが存在し、そのキャラクターが縦横無尽に理想の未来を飛び回る……そんなイメージだ。