まさか私がもう一度自分が生きている前提で、来年という言葉を使える日が来るなんて思わなかった。

奴は
「そうだよ、来年まで待っててね」
と涙を浮かべて私の薬指を自分の薬指に絡めさせる。
そしてお互い微笑みあって、今度は私から小指と小指の繋がりを作った。
ここで物語が終われば、どんなに美しいだろうと思うのだが、残念ながら運命というものは決まってしまった通りにしか動いてはくれない。
私はあの日から病院に入院した。
2ヶ月の入院の間、唯一変化した事と言えば。
ただ死を待つためでなく、悠木の家の援助によって延命治療を受けるという選択を受け入れた事だった。
大きな進歩だと医師も母も私に言ってくれたが、自分の体の事だ。
それらが全て遅すぎたという事は、誰よりも自覚がある。
宣告された死亡日が近づくにつれて、私の痛みは、意識を保つ事を拒むほどになっていた。
薬の種類が代わり、まともな意識を保っていられた日数は、2週間よりも少ない。

ああ、もうすぐ私は死んでしまうのだ。

夢を選択した時から、もう後戻りはできなかったのだ。
でも、あの夏の日の誓いは決して馬鹿な事だったと思わない。
あれがあったから、どこか刹那的に生きていた私の人生の最後は本当に眩しくて愛しくて、好きになった人に好きだって素直に言いたくなるようになった。

そして、とうとうその日がきた。
昨日までの痛みが、嘘のように無くなっていた。
何も考えずに自分で体を起こそうとしたら、体の筋肉がそぎ落とされたかの様に言う事を聞いてくれない。
何かの影が動いた。

(誰かいるのだろうか……?)