「君がどんなにお母さんの事を大事に思ってて、少しでもお母さんに楽させたいって思って、あの学校で奨学生になったのも知ってるよ」
「そうだね」
「君を育ててくれた人に叶わないのは当然だよ」
「知ってたなら、あの時どうして拗ねたわけ」

肋骨が折れるかと思った恨みは、忘れてない。

「あの時は本当に知らなかったんだ。知ってから後悔した。……そうだよね、僕が一番になれるはずないのに、世界で一番好きって言わせて見せるなんて、どうして言っちゃったのかなって」
「そう……」
「だから僕は、世界で一番君の助けになれる男になりたいって思ったんだ」

そう言うと、手術のパンフレットの上に名刺を置いた。

「これ……」

著名な作品を次々と生み出した、歴史的な出版社の名前が左上に書かれていた。
私が出版を約束していた出版社より、権力も強い。

「いつか、小説の話をしてくれたら渡そうと思ってたんだ」
「いつから?」
「君がノートに何か書いてるの、僕ずっと見てきたからね」
「いつから?」
「だから言ったでしょ、僕は片思い5ヶ月のベテランだからね」

年単位の片思いをしている人がこれを聞いたら、5ヶ月ごときで偉そうに言うなと言い放つだろう。
まあ、私よりは長いのは間違いないので、これは言わないでおこう。
それよりも、ずっと聞きたかった事がある。

「どうして、私だったの?」
「どうしてって?」
「可愛くも無いキューピー体型の目つきもするどい、誰とも仲良くできないような私に、なんでその……」

この言葉を言うのは未だに慣れない。

「好きになったかって事かな」

はい。有難うございます。
それが言いたかったのです。

「君だけなんだよ」
「何が?」
「僕を特別扱いしなかったの」
「え?」
「ほら、僕普通じゃないでしょ?」
「うん」
「僕が変な事を言っても、ほとんどの人は『天才だから』の一言で済ませてしまうんだ。きっと君じゃなかったら、死ねや消えろというセリフは絶対に言わなかっただろうね」
「すっ、すみませんでした……」

事情があったとは言え、人間にぶつけて言い言葉ではないなと、改めて猛省。

「何度も言ったと思うけど、傷ついたっていうのは本当。気になってる子にね、消えろって言われるの、結構きついよ。ほら、僕のここ、ちょっと剥げてるでしょ」
「え!?うそ!」

奴が見せてきた後頭部に触ろうとすると、ぐいっと掴まれてそのまま押し倒された。