(あれ……?)

暗かったはずの窓の外は明るかった。
私は、昨日と同じ服を着たまま、しっかりと布団が掛けられていた。
そしてその横には……。

(ほわあああああ!?)

上半身裸の奴が、いびきもかかず、人形のような綺麗な寝顔で横たわっていた。

(うっわぁ……まつ毛、長っ)

今までの仕返しと、眠ってる間にちょっかいでもだしてやろうと、奴の頬をつねっていると

「お目覚めですか?」

勝手に開くはずのないクローゼットが急に開けられた。
ぴっちりスーツを着込んだあの薔薇老人が、爽やかに立っていたのは、B級ホラー映画よりもよっぽどホラーだ……と、思った。

「覚えていらっしゃいますか?」
「貴方達が夜に乱入した事ですか?」
「これも主人の為ですのでお許しいただけたらと思います」

 そう言いながら、執事さんは奴の体に自分のジャケットをかけてやる。

「布団……ありますけど」
「貴婦人の寝具に手を出すほど、清様は飢えてはおりません」

そう言うと、執事さんはピンポイントであの薬を持ってきた。
私が何も言っていないのに。

「あの……」

執事さんは、この薬が何を指示しているのか……分かっているのだろうか。
飲まなくてはいけない水の分量も正確に計られている。

「申し訳ありませんでした」
「……え?」
「私の調査で雪穂様のご病気をもう少し早く突き止めていれば、こんな事にはならなかったのに……」

こんなこと……というのは、私の余命のことだろう。

(人に知られるのって、あんまり気分良くないな)

今年の4月末だった。
頭痛が止まらず、救急車で運ばれたのは。
そして言われてしまったのだ。

「冬まで持たない」

と。
ドラマではよく見る、はっきりとした余命通知だった。
フィクションではなく、現実にそんなことがあるんだな、と感心してしまった。