「ねえ、無視することないんじゃないの?」
「忙しいから」

掴まれた二の腕についた赤い痕を見ながら恨めし気に言う。

「僕だって君みたいに勉強だけしていれば良いくらい暇じゃないんだよ」

また一つ人の地雷を爆発ようとつつく。

(ここで反応したら、また1時間は、時間を無駄にしちゃう……)

ちらりと奴の取り巻きに目をやる。

(じろじろ見るだけなら、助けてくれよ)

いっそ、私の事ぶん殴るなり突き飛ばすとかすればいいのに。早くこいつを引きはがしてくれ。気持ちよく熨斗までサービスしてあげるから……と、思いながら、期待をするのをやめた。

「夏休みに何か予定はあるの?」
「は?」

あんたが来てくれたせいで、こっちは学校の成績TOP5にいるのが最大の条件である無償奨学金の危機なので、お勉強するしかないんですが何か問題でも。
ぎろっと、ついてしまったお肉のせいでますます細くなってしまぅた目をここぞとばかりに細くして睨み付けた。

「僕と遊んでくれないの?」
「は?」
「これ、僕の連絡先だから」

そう言って渡されたのは、社会人が持つような名刺だった。

「どうも」

かつて母に教えて貰った完璧な名刺の受け取り方を実践し、そのままちょうど近くにいたファンの一人らしき女子の頭に

「ほい、あげる」

と置いた。

「ひどいな。僕の連絡先を渡したいのは君だけなのに」

と、幸運にも名刺という、好きな人のだったら喉から手がでる程欲しい個人情報を手に入れたはずの女子の頭からささっと回収しながら、奴は私の腕を再び掴む。

「何するのよ」
「君が無視するからいけないんだよ」

そう言うと、そのまま引きずるように私は奴によって図書館の地下へと続くエレベーターに無理やり乗せられた。

「ちょっと!ここは関係者以外立ち入り禁止の……」

私ですら

「関係者超羨ましい」

と涙すら浮かべて嘆いた、例の地下倉庫に通じるエレベーターに簡単に放り投げられ、かつそれを見ていたはずの司書が何も言わない。
普段ならのど飴一つ嘗めるだけで

「今すぐ出しなさい」

と問答無用でティッシュを渡され、吐き出されるまで一歩たりとも動いてくれないくらい厳しいはずの司書が。

(ちょっと、こっち見て!見ていたよね!何で注意しないの!?)

「どうしてか知りたい?」