夏休みに入る直前。
夢の勉強の為にどうしても手に入れたいと思った本が入ってきたと、専属司書に教えて貰った。
今までの2倍以上に増やした勉強時間の合間に、最高のテンションでスキップまでして図書館に飛び込んだ。

それなのに。
ドアを開けた瞬間目に入った奴……それも恥ずかしすぎるスキップ姿を真正面から見られたせいで、一気に天井まで突き抜けていたテンションは床の底を突き抜けるまでガタ落ちしていた。

「矢部さん?こんな所で会えるなんて思わなかった」
「なんでここに……」
「君に会いたかったからだよ」

言うな。
お前の数十人のファンに囲まれているこの状況でそれを言うな。
お前のファン……何故か数名男がいるのも気になるのだが……に私がどんな扱いを受けるか、お前ずっと見てきただろう。

「冗談は顔だけにしてくれない?」
「君こそ、冗談は地面を揺らしそうなスキップとぺちゃパイだけにしてくれないかな」

(こいつはまた言いやがった)

そう。
奴が毎日毎日踏みまくる地雷は、何も腹だけではない。
少しくらいは成長していても良いはずの、女ならば少しくらい膨れるはずの、一向に成長のかけらも見られないお胸様に対しても、次々と地雷を踏みやがる。
ムカつくことに、爆発させるだけさせといて、自分は軽やかにこちらの火炎放射のような攻撃にさらりと水をぶっかけるようにかわしていく。

「おはよう、ぺちゃパイさん」
「うるせえ」
「今日も元気なキューピーだね」
「ふざけんな、嫌いだこの野郎」

定例化したやり取り。
二回目まではアメリカ帰りならではの空気の読めない、天才ならではのコミュニケーション能力の欠如故なのかと思い、多少は甘く見てやっていたのだが、4回、5回と繰り返す内に気づいてしまったのだ。

(こいつ……わざとやっている……!)

わざわざこちらの地雷を逐一調べ上げて、一度も外すことなく次々と踏んで、私が大声を上げるのを心の底から楽しんでいやがるのだ。
絶対今日は、これ以上反応しないぞ。

「矢部さんもこっちにくれば良いのに」

(無視だ無視)

そう決めこみ、司書に教えて貰った棚に行くために踵を返した瞬間、マシュマロのような唯一の私のチャームポイントである二の腕を、痕がつくくらい強く握られた。