解き方と言われても、すぐに頭の中に数が思い浮かんでしまうのだから説明のしようがない。
 千紗はいつもそうなのだ。
 計算を問われれば、頭の中でそろばんや筆算などを思い浮かべなくても答えが思い浮かんでしまう。
 足し算でも掛け算でも、たとえ何桁でも即答できる。
 自分はそれが当たり前だと思っていたのだが、まわりの子供はもちろん、大人でもそうではないと気づいてからは、生意気な娘だと嫌味を言われることもあって隠すようにしていたのだ。
 それが昨日新久郎に問われた時は、男の子に間違われた反発からつい即答して見せてしまったのであり、それが元でまたこのように算術の話ができるとは思ってもみなかった。
「甲と乙を足して二十五だから、甲二つと乙二つでは五十。二つの式の差を比べて甲二つが三十六。割って十八。二十五から引いて七」
「ほう、なるほど、そうか」
 新久郎は感心しているようだが、今適当に考えた説明だ。
「なあ、この算法を使えば、昨日のウサギとキジの問題も解けることになると思うのだが、どうだ?」
 千紗はコクンと頷いた。
「となれば、どんな獣の組み合わせでもできるな」と、新久郎が朗らかに笑う。「これまでは鳥獣戯画を見ても頭と足の数ばかり数えておったが、私も一緒に楽しめるようになれそうだな」
 今にも踊り出しそうな笑顔を見ていると千紗も頭がのぼせそうなほど熱くなる。
「算術が楽しいと思えたのは生まれて初めてじゃ」
 そう言われて千紗は新久郎の顔をまっすぐに見つめた。
 今度は新久郎が視線を空に逃がす。
「そなたと一緒に解くから楽しいのだな」
 若様の頬が赤く染まり、額に汗が浮いている。
 千紗は手ぬぐいを取り出して汗を拭いてやった。
「おう、これはすまぬな」と、顔全体に汗が噴き出る。「いや、暑い。暑いな」
 新久郎はあわてて立ち上がると、手で顔をあおいだ。
 千紗も腰を上げて腕を伸ばすが、額に手が届かない。
 悔しそうな表情でぴょんぴょん跳びはねる千紗に合わせて、ひょろり新久郎も跳びはねる。
「ハハハ、鳥獣戯画のように愉快だな。頭二つに手足が八本。男一人と娘が一人。踊り踊れば春が来る」
 なんとも下手な踊りで、つい千紗も吹き出してしまった。
 どこから流れてきたか桜の花びらが舞う。