「これで、いいかな?」
「……うん、そんな感じでこれからも宜しく」
上出来だ、と言いたいくらいだったが、素直にお礼が言えないところが、わたしらしいといえばわたしらしい。
でも、これで無事、昨日みたいに憂ちゃんに振り回されることはしばらくなさそうだ。
「それじゃ、また明日も、宜しくね」
憂ちゃんが去ってしばらくして、わたしたちも学校から出ようとしたのだが、
「えっ?」
という、素っ頓狂な声を智子が発した。
ん? という怪訝な表情をつくったわたしだったが、少しオドオドしたように、智子が告げた。
「えっと、だから、図書室、今から一緒に行くんだよね?」
「…………は?」
いやいや、なんでそうなる?
「だって、図書室で勉強するって……」
「えっと……それ、本当だと思ってたの?」
わたしが半ば呆れるように言ったのに対して、智子は本当に分からないといった感じで首を傾げていた。
なるほど、そこら辺の説明を省いてしまったのはわたしの落ち度だ。
なので、わたしは智子にも分かるように解説してあげる。
「いい、図書室で勉強するっていうのは、あくまで憂ちゃんに理由をつけてわたしと一緒に帰らないようにするための嘘。何も律儀に本当に勉強なんてしなくてもいいのよ」
ぶっきらぼうにそう告げたわたしは、ため息をついて肩を落とす。
憂ちゃんじゃないけれど、誰が好き好んで、学校で残って自習をしなくてはいけないのだ。
しかし、わたしの説明を聞いても、智子は全く納得したような顔は見せなかった。
「でも、愛美ちゃん。本当のところはどうなの?」
うっ、と思わず反射的にしかめっ面を作ってしまった。
先ほど、智子が憂ちゃんに言ったことは、あながち嘘ではないのだ。
わたしが通っていた学校とは本当に使っている教科書が違うかったし、まだ習っていない数学の公式が当たり前のように使われていて、全然授業の内容が頭に入ってこないことをたった2日の内に経験した。
「それに、そのまま帰ったら、憂ちゃんに……近江さんたちに、変だと思われない?」
確かに、智子のいう通りにはいう通りだったのだが、わたしもそこまで馬鹿じゃない。
ちゃんと時間つぶしくらいして、適度な時間に帰るつもりだ。
「それならさ、さっきわたしが言ったこと、現実にしたほうがいいんじゃない」
言いにくそうに、だけどきっぱりと、智子は宣言した。
「わたし、これでも勉強の成績はいいほうだから力になれると思うよ。だから……利用価値は、あると思うよ」
最後の台詞だけ、ちょっとだけ寂しそうに言っているように聞こえた。
利用価値。
それは、わたしたちのこれからの関係を表すのに、ぴったりの言葉のようだった。
「わかったよ」
どうせ時間を潰すっていっても、何かやりたいわけじゃなかったし、ここは智子の案に乗っても問題はないだろう。
存分に、利用させてもらおうじゃないか。
わたしたちは、そのまま、仲が良さそうな友達のように、図書室で勉強会を始めることにしたのだった。