具体的には、今日の放課後、わたしは早速、智子と友達になったことを、ある人物に伝えることにした。
「おおっ! じゃ、早速2人は仲良くなっちゃったんだね!」
予想していた通り、2年A組の教室に、またしてもやって来た憂ちゃんがキラキラした目でわたしたちを見つめる。
「うん、色々、話を聞いたら気があってね」
よくもまぁ、こんなに心にもないことが言えるもんだと自分自身に感じつつ、わたしは隣にいた智子にアイコンタクトを送る。
わたしと憂ちゃんの関係、もとい近江一家については、これまでに少し説明しておいたので、話を合わせてくれるはずだ。
そして、わたしが憂ちゃんに放課後、つき合わされて困っているというニュアンスのことを伝えると、智子は「わたしが何とかしてみる」と言ってきた。
実際、智子はわたしの予想以上にはたらいてくれた。
「そうなの。それでね、昨日助けてもらったお礼っていうわけじゃないけれど、今日はこのまま、図書室で愛美ちゃんとお勉強しようと思って。ほら、愛美ちゃんは転校してきたばっかりだから、微妙に授業の進行速度とか違ったみたいで……」
その後、智子はわたしに勉強を教える理由を、懇切丁寧に解説していったが、『お勉強』という台詞が出てきたあたりから、若干眉をひそめて、憂ちゃんは浮かない顔をしていた。
本当に、わかりやすい性格をしているなぁ、この子は。
「――っていうことなんだけど、良かったら、憂ちゃんも一緒にお勉強していく?」
「いっ、いやいや! あたしはその、間に合ってますんで! そうだなー、愛美ちゃんたちの勉強を邪魔するのも悪いしなー。あーあー。本当は勉強したかったけどなー」
口笛を吹く真似をしながら(どうやら音は出せないらしい)しれっと、帰ろうとする憂ちゃん。
いや、べつにわたしたちに気を遣って残る必要なんてないんだけど。
だけど、そんな大根芝居をする憂ちゃんに対しても、智子は優しく語りかける。
「憂ちゃん。愛美ちゃんのことは、しばらくわたしに任せてもらえるかな?」
人をペット扱いみたいに言わないでほしいと反論しそうになったところで、憂ちゃんは「うん、それじゃ、愛美ちゃんをよろしく!」と言って、来たときと同じくらいの猛スピードで立ち去ってしまった。