ふぅん、どれも見慣れないタイトルだな。ん? 『人気(ひとけ)のない人気(にんき)観光地で』? これは来月封切りになるはずの邦画じゃないか? ……『ゴーストアバター』、これもまだ日本では上映されていないはずの洋画だ。予告編が観られるというわけか?
 僕は大して期待せず、そのタイトルに触れてみる。そしたらどうだ、監視カメラの映像を流していた室内の巨大な三面モニターのうちの一つ、真ん中のモニターの映像が切り替わり、紛うことなき映画の本編が始まった。タブレット端末に表示されている残り時間を見れば、それが予告編の類でないことは明らかだった。
 ……おいおい、まさかさっきのタイトル全部、観放題というわけか。しかも、もしかして……どれもまだ一般には公開されていない作品なんじゃないか?
 僕は一旦、等号を縦向きにしたかのようなお馴染みの一時停止ボタンをタップしてから、端末のホーム画面に戻り、並んでいるアイコンの名前を一つずつ確認していった。
『テレビ』『映画』『雑誌』『小説』『ゲーム』……。『テレビ』のアイコンをタップすると、端末には『ワイドショー』『ドキュメンタリー』『紀行』『教育』『料理』『バラエティ』『クイズ』『芸能』『音楽』『トーク』『時代劇』『特撮』『ドラマ』『アニメ』と新たな項目が表示され、さらにそこから新たに表示される項目――具体的な番組名をタップすると、やはり正面のモニターだけが切り替わり、選んだテレビ番組を流し始める。
 ……ふふん。とりあえず、暇潰しに困るということは、なさそうだな。
 考えてみれば、今や娯楽の多くは画面の中に集約されてしまったのだ。
 僕はリクライニングチェアの背もたれを倒し、タブレット端末を操作して、先ほどの洋画を観ることにした。
 観始めてすぐ、違和感に気付く。日本語吹き替え版であるにもかかわらず、日本語の字幕も表示されているのだ。
 ……ははあ、分かってきたぞ。この塔の住人は、監視員でもあり、チェック係でもあるのだな? 封切り前の映画を見せ、問題点がないかをチェックさせる。
 僕のその推察はどうやら見事に的中していたようで、テレビも、映画も、雑誌も、小説も、漫画も、ゲームも、全てまだ世間に出回る前のタイトルばかりだった。