忍者にでもなったつもりで静かに慎重に敷地内へと降り立つと、今まで見えなかったものが見えるようになった。ブロック塀に隠れて見えなかったというわけではない。それは塀なんかの何倍も高く、空を突き破るかのようにそびえ立っていた。
 剣山のごとき、無数の塔。……いや、それらの大本は繋がっている。
 城だ。低く広大な土台から、おびただしい数の塔が伸びているのだ。
 まるで世界中の高層建築物を一ヶ所に集めて、そこに大量の生コンクリートをでろでろと注ぎ、それらの下部を無理矢理にひとつながりにしたかのような――そんな豪快さと危うさが混在した塔の群れに、僕は恐れおののかずにはいられなかった。
 数歩後ずさる。すると背中に硬いなにかが当たり、ハッと後ろを振り返ってみると、……それはなんのことはない、今し方乗り越えた、穴あきのブロック塀だった。
 僕は「驚かすなよ」と呟きながら城に視線を戻す。が……、……なんてことだ。城は忽然と消えてしまった。
 ……本当に、なんてことだ。よそ見をしてしまったがために!
 わなわなと、おぼつかない足取りで城があったほうへ歩み寄ると、幸福にも、城は再び僕の前に姿を現した。
 なるほどなるほど、分かってきたぞ。近付けば見える塗料かなにかが、塗られているのだろう。
 そうと分かれば焦ることはない。いくらか余裕が生まれてきた。僕は時間が経つのを忘れ、獲物が突き刺さるのを身を潜めて待っているかのようなその城を見上げ続ける。
 だが人間、眺めてそれで満足というわけにはいかない。やがて僕は入口を求めて城を周回し始める。これもやはり、一見してそれと分かる入口というのはない。しかしブロック塀の一件が僕に確信めいたものを与えていた。
「入口は必ずある」――だから注意深く探すのだ。
 そうして僕は時間をかけ、レンガ調のシールが貼られただけの面を見つけ、回転扉となっていたそれにほとんど巻き込まれるようにして、城の中へと入った。
 最近のコンビニだ、と僕は思った。昔に建てられたコンビニは、建物の外装にレンガ調のタイルを使っている。タイルなのでもちろん本物のレンガ造りとは違うのだが、凹凸があり、いかにもそれらしく見える。
 でも最近のコンビニは、平らな壁面にレンガ調のシールを貼っているだけで、凹凸がないため、斜めから見ればすぐにレンガではないと分かるのだ。