僕はかつて通用門があった一辺をたどり、どこかに入口はないのだろうかと注意深く脇見歩きをする。いくら土地利用の見込みがないとはいえ、普通は関係者用の出入口くらい、ちゃんと設けているものだ。それこそ、本当に土地を封印するつもりであるのならば話は別だが。
 通用門があった部分だけが明度の高い新しい塀となっていることを除けば、なんの変化もない灰色の壁が、ただただ延々と続いている。それでも僕は角を曲がり、次の辺も入口を探した。手頃な石を一つ拾い、まるで迷路を抜けるための一つの策であるかのように、それをかりかりとブロック塀に押し当てながら歩いていく。
 なぜそうしたのかは分からない。きっとなんとなくだ。しかし往々にして、その「なんとなく」が新たな発見をもたらす。

 ……窪(くぼ)んでいる。
 ブロック塀の継ぎ目はわずかに溝になっていて、その溝がまるでブロックの集合体であることを誇示するかのごとく、壁面に無数の長方形を描き出しているのだが、そのブロックの四方の継ぎ目だけ、明らかに溝が深くなっていた。当てていた石が、妙に引っかかったのだ。
 不思議に思ってそのブロックを軽く押してやると、はまっていただけらしいそれはいとも簡単に向こう側へと落ちた。
 ブロック塀の、僕の腰よりわずか低い位置にある部分に、長方形の穴がぽっかりとあく。
 なんだ、これは? 僕は戸惑った。鉄砲狭間じゃあるまいし……。老朽化にしたって、こんなきれいに、まるでくり抜かれたみたいな歯抜けのブロックができてしまうものなのか?

 ……いや、違う。これは足場なんだ。

 僕は試しにそこへ右足を置いた。つられるように左足が自然と浮き、高められた視線の先に、まるで「ここにつかまれ」とでも言うかのような、継ぎ目に沿った切れ込みのあるブロックが見つかった。
 僕はそれも向こう側へと落とすと、あいた空間に右手をかけて、ブロック塀にへばりつく。
 もしや。…………、思った通りだ、また腰の下辺りに、足場が見つかった。僕はそこへ左足を置く。すると右手をかけていた空間が、今度は第三の足場となった。まるでボルダリングだ。
 そのようにして、僕は塀を跨いだ。塀から手を放した隙に強い風が吹き、肘から提げていたコンビニの袋がクラゲみたいに舞い上がっていってしまったけれど、そんな小さな罪悪感は、好奇心の前では全くの無力だ。