その旨を訊ねると、「ここ、火の扱いには特別厳しいから、たばこはダメなんだよ」と、眼鏡の男が心底悔しげな表情で言う。きっと塔に入る前は喫煙者だったのだろう。
 彼には悪いが、考えてみれば当たり前のことだ。たばこを吸ったまま仕事をして、そのまま眠ってしまう状況が容易に想定できる。監視塔員はベッドに横たわりながら仕事をしているようなものなのだ。
 まあ、男の口ぶりから察するに、「たばこのほうはともかくとして、せめて酒くらいは自由に飲ませてくれよ」ということだろうか。
「酒やたばこはやらなくても、音楽は聴くだろう? ミカズキ、きみも若者なら、外にいたころはこんなに小さな機械に何百曲もの音楽を入れて、毎日欠かさず聴いていたはずだ。しかし塔のチェック仕事に、CDは含まれていないからな。だから音楽を聴くにはテレビの音楽番組ということになるが、それも期間を過ぎれば、新しい回のものに更新されてしまう」
「確かに、それは寂しいですね」
「だろう? それに、すぐ聴けなくなってしまうからと、同じ番組を何度も何度も繰り返し見るのは、これは効率が良いとは言えないじゃないか。チェックの仕事としても」
「まあ、そうかもしれませんね」
 そんなわけで、僕は「監視塔労働組合」というのに入ることにした。手続きは「組合に入る意志を組合員の誰かに伝えればそれでOK」という、ごくごく簡易なものだった。
 入ったからといって、特別なにかの活動にかり出されるわけでもない。そもそも、僕らが自由に行き来できるのは、自分の部屋と運動階だけらしい。本当は今回のように誰かの部屋に集まるというのもやってはいけないことなのだそうだ。電話も、監視塔員の部屋同士は通じない。だから運動階を訪れた際、時折他の組合員から思い出したかのように待遇改善交渉の進捗を聞くことが、僕の唯一の組合活動だった。

 さて、これは予想できたことだったが、監視塔は、一度出れば二度と戻ることが許されない施設だった。まあ、気楽に外出できるようでは、情報管理の面で顧客からの信頼性はゼロに等しい。もっとも、監視塔員を辞めるつもりであるのならば、塔を出るのはいつでも自由ということだから、どちらかといえば緩い条件なのかもしれない。