やはり、気になるのはそこだった。
トウコは、私の見立てだから自信を持っていいのだと言うばかりで、正確な理由を明かしてくれない。
占い喫茶「アルカナ」は、美聖の予想通り、連日繁盛している。
トウコが作るデザート目当てで来店するお客様も多いが、学校帰りの女子生徒がふらっと立ち寄り、興味本位で占いをオーダーするケースも多い。
対面鑑定が初めての美聖にとっては、占い初心者のお客さんを鑑定することができる実践の場は、本当にありがたかった。
だが、店の立場としてはどうだろう。
どうせ雇うのなら、ベテランの占い師の方が良いはずだ。
トウコはほとんど鑑定をしないが、彼の方が美聖よりはるかに、スキルが上だ。
見た目はともかく、人付き合いも良さそうなので、人脈もあるだろう。
どうして、そんな彼が美聖に声を掛けてきたのだろうか……。
(私なんかより、適任は大勢いるだろうに……)
――合格だ……と、降沢自ら、美聖に告げた。
あの言葉の意味。
美聖の目が良いというのは、どういうことだったのか?
彼の試験内容は、おそらく『ユリの絵』だったはずだ。
『慕情』という名前の絵は、降沢が描いたものなのだそうだが……。
(普通、自分が描いた絵を見て、腰を抜かしそうになっている人間を採用しようと思うのかしら?)
美聖に、霊感はない。
もしも、霊能力者だったら、もう少しちゃんと鑑定することも出来たはずだろう。
少しゾッとした。その程度で……。
目が良い人間を雇いたいのなら、霊能者を雇えばいいのではないか?
…………いくら考えても、さっぱり分からない。
「あっ、ほら……一ノ清さん時間ですよ」
時計に目を落としつつ、降沢が小声で伝えてきた。
ほとんど空気のような存在に成り果てているにも関わらず、こういうことには、目敏い。
「あっ、ごめんなさい! 今、看板を出してきます」
慌てて美聖は、玄関の前に立てかけられている四角い店の看板を手に、外に飛び出した。
午前十一時開店だ。
ゆったりと時間が流れている古民家カフェは、大体ふらっとお客さんが立ち寄るスタイルが多いので、開始早々お客さんが入店するケースはまれだ。
――しかし、今日は……。
「…………あっ」
外に出た途端、人がいた。
黒縁眼鏡に赤髪の男は、気温が高いにも関わらず、黒いズボンに、分厚いジャケットを肩に引っかけている。
しかも、今の今まで、煙草を吹かしていたらしい男は、美聖が現れた途端、それを捨てて、重そうな靴で、ごしごしと地面にこすりつけていた。
ジャケットの中から、覗く左腕には、赤い薔薇のタトゥーが入っていて、幾重にもブレスレットがぶら下がり、中指に骸骨スカルの指輪をはめていた。
いかにも、ロックミュージシャンのような容姿をしている男は、『アルカナ』の雰囲気とは明らかに一線を画した異質な存在であった。
――いや。
(この人、どこかで……)
「あの……?」
おそるおそる声を掛けたが、美聖の声が届く前に男が尋ねてきた。
「なあ、開店したんだろ?」
「……あっ、はい。たった今」
「じゃ、もう、いいよな。お邪魔しまーす」
「えっ? あっ、ちょっと!」
男は強引に、美聖を押しのけるような形で店に入って行った。
「いらっしゃいませ……」
愛想良く、厨房から挨拶をするトウコを無視して、降沢以外、誰もいない店内をぐるっと見渡す。
昭和レトロの空間に、鮮やかな赤髪が浮いていた。
トウコは、私の見立てだから自信を持っていいのだと言うばかりで、正確な理由を明かしてくれない。
占い喫茶「アルカナ」は、美聖の予想通り、連日繁盛している。
トウコが作るデザート目当てで来店するお客様も多いが、学校帰りの女子生徒がふらっと立ち寄り、興味本位で占いをオーダーするケースも多い。
対面鑑定が初めての美聖にとっては、占い初心者のお客さんを鑑定することができる実践の場は、本当にありがたかった。
だが、店の立場としてはどうだろう。
どうせ雇うのなら、ベテランの占い師の方が良いはずだ。
トウコはほとんど鑑定をしないが、彼の方が美聖よりはるかに、スキルが上だ。
見た目はともかく、人付き合いも良さそうなので、人脈もあるだろう。
どうして、そんな彼が美聖に声を掛けてきたのだろうか……。
(私なんかより、適任は大勢いるだろうに……)
――合格だ……と、降沢自ら、美聖に告げた。
あの言葉の意味。
美聖の目が良いというのは、どういうことだったのか?
彼の試験内容は、おそらく『ユリの絵』だったはずだ。
『慕情』という名前の絵は、降沢が描いたものなのだそうだが……。
(普通、自分が描いた絵を見て、腰を抜かしそうになっている人間を採用しようと思うのかしら?)
美聖に、霊感はない。
もしも、霊能力者だったら、もう少しちゃんと鑑定することも出来たはずだろう。
少しゾッとした。その程度で……。
目が良い人間を雇いたいのなら、霊能者を雇えばいいのではないか?
…………いくら考えても、さっぱり分からない。
「あっ、ほら……一ノ清さん時間ですよ」
時計に目を落としつつ、降沢が小声で伝えてきた。
ほとんど空気のような存在に成り果てているにも関わらず、こういうことには、目敏い。
「あっ、ごめんなさい! 今、看板を出してきます」
慌てて美聖は、玄関の前に立てかけられている四角い店の看板を手に、外に飛び出した。
午前十一時開店だ。
ゆったりと時間が流れている古民家カフェは、大体ふらっとお客さんが立ち寄るスタイルが多いので、開始早々お客さんが入店するケースはまれだ。
――しかし、今日は……。
「…………あっ」
外に出た途端、人がいた。
黒縁眼鏡に赤髪の男は、気温が高いにも関わらず、黒いズボンに、分厚いジャケットを肩に引っかけている。
しかも、今の今まで、煙草を吹かしていたらしい男は、美聖が現れた途端、それを捨てて、重そうな靴で、ごしごしと地面にこすりつけていた。
ジャケットの中から、覗く左腕には、赤い薔薇のタトゥーが入っていて、幾重にもブレスレットがぶら下がり、中指に骸骨スカルの指輪をはめていた。
いかにも、ロックミュージシャンのような容姿をしている男は、『アルカナ』の雰囲気とは明らかに一線を画した異質な存在であった。
――いや。
(この人、どこかで……)
「あの……?」
おそるおそる声を掛けたが、美聖の声が届く前に男が尋ねてきた。
「なあ、開店したんだろ?」
「……あっ、はい。たった今」
「じゃ、もう、いいよな。お邪魔しまーす」
「えっ? あっ、ちょっと!」
男は強引に、美聖を押しのけるような形で店に入って行った。
「いらっしゃいませ……」
愛想良く、厨房から挨拶をするトウコを無視して、降沢以外、誰もいない店内をぐるっと見渡す。
昭和レトロの空間に、鮮やかな赤髪が浮いていた。