「やあ少年」と肩を組まれ、「やあ少女」と応える。

 校門の中、隅のアスファルトの隙間にたんぽぽが咲いている。

 おれは押村さんの顔を見た。ああやっぱり、というような気がした。

 「……なんかあった?」

 「え、なんで」

 「なんとなく。元気かなって」

 「元気だよ。私だぞ、元気以外に取り柄なんてないんだからさあ。キャラ、ぶれさせないでよ」

 「キャラとかじゃなくて」と、おれは押村さんの腕から抜け出す。「押村さんは押村さんでしょう」

 おれが足を止めると、押村さんも足を止めた。昇降口までの道の、真ん中より少しばかり隅に寄ったようなところで、二人向かい合う。周りの生徒は、皆おれたちを避けて進んでいく。

 「そうだよ」と、彼女は当然のように言う。「私は私だよ」どうしたの高野、と怪訝な顔をする。こうされると弱い。おれがおかしいのかと思えてくる。

 「押村さんは無茶しすぎだよ」

 「無茶ってなによ」と押村さんは困ったように笑う。「本当、どうしたのさ高野。変だよ」

 「変なのは押村さんだよ。この間から、なんか違う」

 「そりゃあ」と、器用に方眉を上げて笑う。「人間、毎日同じわけないんだしさ。もしも今日、高野と約束をしたとしても、明日の私はそれを知らないかもしれない」

 押村さんも変わったということか。ではその引き金を引いたのはなんだ。少し考えて、まさかと思う。

 「……綸……」

 押村さんの目が変わった。深く濃い、すべてを覆ってしまうような、強い恐れの色が映っている。

 押村さんは大きな目をゆっくりと閉じると、一つ、深呼吸をした。そして目を開くと、二つの大きなものを受け取るように両手を差し出した。まるで、神になにかを捧ぐような、罪人が裁きを甘受するような姿。

 「私をどうする?」

 「どうするって……」

 「なんでもいいよ。軽蔑だって侮辱だって、殴ってくれたっていい。……なにもせず、いなくなったっていい」

 押村さんは話す毎に声を震わせ、目に涙を浮かべた。

 「おお、大丈夫か?」と男性の声がして振り返ると、中年の先生がいた。校門の外に立っていた人だ。

 「あ、ええ……」とおれが曖昧に頷くと、「眠いねって話してたんです」と押村さんが答えた。「いっそ眠ってしまえたら楽なのにねって」

 「そうか」と頷くと、「体調管理はしっかりな」と言って、先生は校門の外へ戻っていった。

 おれは押村さんを見た。にっこり笑い掛けてくるけれど、それはどうしようもなく悲しい色をしている。眠ってしまえたら楽……か。