「そういえば」とおれは言った。「昨日、なんだっけ」

 「昨日?」

 どっちだろうか。本当に覚えていないのか、話したくなくなったか。

 「……放課後、言ってた話」

 「ああ」と押村さんは思い出したように頷いた。

 「あれはね、私が酷い奴って話」

 「酷い……?」

 「最低な奴」

 「……え、そんなことないでしょう。押村さんは――」

 「私ね」と押村さんは言った。おれは黙って言葉の続きを待った。

 「お母さんの方に、同い年のいとこがいるんだよ。お母さんの姉の子供。女の子なんだけどね、すごくいい子なの。優しくて穏やかで、すごくかわいいの。小さい頃の写真なんて、天使みたいなんだよ。『今回はたまたま写ってないけど、本当はこの子の背中には真っ白な大きい羽が生えてるんだよ』って言っても、信じる人がいるかもしれないくらい」

 その家系には押村さんの他にもそんなかわいい人がいるのかと、複雑な気持ちになる。うちの親戚はと言えば、平凡を具現化したような人ばかりだ。平凡や普通というのが一番難しいなんて聞いたことがあるけれど、うちの親戚は皆そこに収まっている。……ある意味ではすごいのかもしれない。

 「その子はね、ちょっと恥ずかしがり屋なの。あまり喋ることもなくて、笑うのも控え目。でもね、その笑った口元がすごく綺麗なの。身内にこんなこと思うなんて変だけどさ」

 「そうかな」

 押村さんは小さく、柔らかく笑った。

 「顔じゅうでわあっと笑うことも、声を上げて笑うこともないけど、ちょっとだけ口角が上がってね、きりっとした目の印象が、が少しだけ和らぐの。それがすごく綺麗で」

 なんだけどね、と言う押村さんの声が低くなった。