「好きな食べ物は?」と楽しそうな押村さん。

 「りんごのゼリー」と、嫌々といった様子の青園。

 「苦手な食べ物は?」

 「……魚卵系。あの、問診かなんかですか、これ」

 「押村さんの儀式みたいなものだよ」とはおれ。青園はため息をついた。

 「好きな飲み物は?」と、押村さんは当然のように続ける。

 「……ストロベリーティー」

 「へえ、そんなのあるんだ。苺の紅茶ってこと?」

 ええ、と青園は短く頷く。

 「へええ。面白いなあ」一拍置いて、「苦手な飲み物は?」と尋ねる。

 「酸っぱいの。梅とかアセロラみたいな。……あの本当、なんの面接ですか」

 まあまあ、と言って、押村さんは「趣味は?」と質問を続けた。けれどそこで、青園の顔つきが変わった。いけないことを訊いた、とは、おれも押村さんもすぐにわかった。そして押村さんも、おれと同じように、時すでに遅しとか後の祭りとかいう言葉の残酷さを再認識したはずだ。

 「ピアノです」と答えた青園の声は、思いの外しっかりしていた。「でも今は弾いてません」と言う声も同じだった。

 おれが見たせいか、目の前の押村さんが見たのか、青園は「これは関係ありません」と、サポーターのようなものが巻かれた右手薬指を、左手で包むようにした。

 「特技ならありませんよ」と青園は話した。食べ物や飲み物の好き嫌いに続いて趣味を尋ねたものだから、次は特技だろうと考えたのだろう。意外と、他者に気を遣うタイプなのかもしれない。