中庭に出ると、押村さんは「やあやあ、今日は晴れてるねえ」と伸びをした。
はあっと腕を下ろす彼女を見て、おれは考える。押村さんのような人が、どうしておれなんかとこう親しくしてくれるのだろう。直接訊いたのでは、きっと、意味なんてないとか、なんとなくとか、一緒にいたいと思ったからとか、そんな風に話すのだろう。おれがわざわざ知るべきことではないのかもしれないけれど、押村さんの不思議な魅力が、考えさせる。
押村さんはベンチに腰掛けると、「まあ座りなよ」と、自身の座る横を叩いた。その辺りに、おれは腰を下ろす。
「あーあ。本当にのんびり部があればいいのに」
「そう?」
「楽しそうじゃない? 活動場所はこの中庭。休みの連絡は不要」
「それなら、のんびり部もどきを作ってみたら?」
「もどき?」
「この近くにいる人に声を掛けて、興味を持ってくれたら、放課後にここへくるように話す」
「ほう、面白そうだね」
「あくまでもどきだから、部の開設に必要な手続きとかも要らないし。まあ、言っちゃえばここを生徒の憩いの場にするってだけなんだけど」
「いいねえ。せっかく植物もいっぱいで綺麗なんだし」
うん、と押村さんは大きく頷く。「これはいいよ。いい。最高だよ」
高野すごいじゃんと背を叩かれて、痛っ、と声が出た。
「いいよいいよ、やろう、のんびり部もどきっ。高野が副部長もどきね。私が部長もどき」
「あ、肩書ももどきなんだね」
「そりゃあ、この活動組織自体が部活のもどきだからね」
いやあ面白い、と押村さんは感心したように何度も頷く。
「よーし、のんびり部もどき活動一日目、よろしくおなしゃすっ」
おなしゃす、とおれは押村さんの言葉を真似た。
「終わったらジュースで乾杯しようね」と言う彼女へ、「奢ってくれるの?」と返してみると、「いや全然」と返ってきた。
前を向き直って、ピロティの柱の陰に人がいるのを見つけた。柱は交互に、暗いオレンジと明るい茶色に塗られていて、そのうち茶色の柱のそばに人がいる。
「あの人とか、声掛けてみたら?」
「え、どこ?」
「あの茶色の柱のそばに、女の子がいる」
「茶色の柱……茶色……」
ああいた、と押村さんは声を上げた。少しして、「よっこいしょういち」と腰を立ち上がる。それを見上げると、「勧誘行くよ、副部長」と言われて、なんだかくすぐったい気持ちで、おれは腰を上げた。
はあっと腕を下ろす彼女を見て、おれは考える。押村さんのような人が、どうしておれなんかとこう親しくしてくれるのだろう。直接訊いたのでは、きっと、意味なんてないとか、なんとなくとか、一緒にいたいと思ったからとか、そんな風に話すのだろう。おれがわざわざ知るべきことではないのかもしれないけれど、押村さんの不思議な魅力が、考えさせる。
押村さんはベンチに腰掛けると、「まあ座りなよ」と、自身の座る横を叩いた。その辺りに、おれは腰を下ろす。
「あーあ。本当にのんびり部があればいいのに」
「そう?」
「楽しそうじゃない? 活動場所はこの中庭。休みの連絡は不要」
「それなら、のんびり部もどきを作ってみたら?」
「もどき?」
「この近くにいる人に声を掛けて、興味を持ってくれたら、放課後にここへくるように話す」
「ほう、面白そうだね」
「あくまでもどきだから、部の開設に必要な手続きとかも要らないし。まあ、言っちゃえばここを生徒の憩いの場にするってだけなんだけど」
「いいねえ。せっかく植物もいっぱいで綺麗なんだし」
うん、と押村さんは大きく頷く。「これはいいよ。いい。最高だよ」
高野すごいじゃんと背を叩かれて、痛っ、と声が出た。
「いいよいいよ、やろう、のんびり部もどきっ。高野が副部長もどきね。私が部長もどき」
「あ、肩書ももどきなんだね」
「そりゃあ、この活動組織自体が部活のもどきだからね」
いやあ面白い、と押村さんは感心したように何度も頷く。
「よーし、のんびり部もどき活動一日目、よろしくおなしゃすっ」
おなしゃす、とおれは押村さんの言葉を真似た。
「終わったらジュースで乾杯しようね」と言う彼女へ、「奢ってくれるの?」と返してみると、「いや全然」と返ってきた。
前を向き直って、ピロティの柱の陰に人がいるのを見つけた。柱は交互に、暗いオレンジと明るい茶色に塗られていて、そのうち茶色の柱のそばに人がいる。
「あの人とか、声掛けてみたら?」
「え、どこ?」
「あの茶色の柱のそばに、女の子がいる」
「茶色の柱……茶色……」
ああいた、と押村さんは声を上げた。少しして、「よっこいしょういち」と腰を立ち上がる。それを見上げると、「勧誘行くよ、副部長」と言われて、なんだかくすぐったい気持ちで、おれは腰を上げた。