放課後、昇降口で高野を見つけた。踵と履き口の間に指を入れたその整った横顔が、外から入る柔らかな春の光を受けていた。

 その隣に自分の紺色のスニーカーを放って、「やあ少年」と声を掛ける。「やあ少女」と返ってきた。「元気かい?」と言えば、「そりゃあもう」と。

 「いやあしかし、部活に入ってないと暇だねえ」

 「もう二年生だよ」

 「そうだけどさ。でもなんか、部活部活って熱くなるのは向いてないから、のんびりするだけの部活とかあればいいのにね」

 「例えばどんな?」

 言いながら歩きだした高野について、外に出た。五段ほどの薄い階段を下り、校門へ向かって歩いていく。私は天を仰いで、「そうだなあ」と考えてみた。

 「のんびり部とか」

 「活動内容は?」

 「ただただのんびりする」

 「帰れって言われそうだね」と高野は小さく笑う。

 「そんなことに使わせる教室はないってね」私は大げさにため息をついた。「先生たちはわからないんだろうね。家で一人でごろごろしてるのと、学校で友達とかと一緒にだらっとしてるのとでは全然感じが違うっていうこと」

 「家の方が気楽じゃない?」

 「そうかもしれないけど……一人って寂しくない? 高野はきょうだい、いるの?」

 「ううん、一人っ子」

 「私も。まったく、大人たちはもっと、孤独な少年少女に目を向けるべきだと思うのよ」

 「押村さんは、寂しいの?」

 「いや、全然」

 高野が噴き出すように苦笑した。「いや、そこはさ、普段の明るい様子からは想像もつかないような、大きな寂しさを抱えてる――みたいなのを打ち明ける流れじゃん」

 「残念だったねえ。私はそんなドラマ持ってないよ」

 「本当に残念だ」と言って、「おれも負けてないけどね」と高野は笑う。嘘つき、と思った。

 「本当?」と私は踏み込んでみた。「そんな人が、休み時間にお酒なんて飲まないのよ」

 「えっとさ、そのお酒ってなに?」昨日も思ったけどさ、と高野は言う。

 「なーんか寂しそうに外見てたじゃない」と私は答える。こういうのは説明しない方が面白いのに、なんて思いながら。

 「寂しそう?」

 「うん。高野、昨日寂しそうな顔してた」

 「そうかなあ。目が細いからかな」

 「うーん、どうだろうね」

 そうなのかな、なんて言ってみたけれど、私はそうではないと思っている。高野は昨日、寂しそうな顔をしていた。