Side実鳥

「脅し？」
「そう捉えると言うことは、自覚があると言うことだな」
「違う！違うけど！！」

本当は全く違うのに。
葉はちゃんと叩いた後、私を理解して笑ってくれると言うのに。
こんな風に一部しか切り取らない形で証拠を作られてしまえば、とても太刀打ちなんかできない。
悔しい。
自分の必死さが、言い訳と一括りで言われてしまうことも。
自分が、ここまで想定した動きができなかったことも。
私は、自分の目から抑えきれないほどの涙が溢れていることに、視界が歪み始めたことで気づいた。

「何でもする……悪いところを直せと言うのなら頑張って直すから……葉は
……葉だけは……」
「こんなに、君が自由になるチャンスを与えても、君はまだ、息子に執着するというのかね？君ではなく、もっと彼にお金も時間もかけられる人間が育てた方が、君にとっても葉君にとっても、良い展開になるのではないかと、思うのだがね」

その言葉で、一瞬躊躇った。
毎日節約生活で、贅沢なことを思う存分させてやれない私との生活より……もっと良い生活ができる場所があるなら、私なんかが手放してしまった方がしれない。
ふかふかのベッドで、明日のご飯の心配をしなくても良い生活。
欲しい物を手に入れ、満ち足りた気持ちでい続けられる生活。
憧れた。
そんな、夢のような生活。
私が手放すことで、葉が手に入れられるというのならば、私はここで葉を手放すべきなのだと、思うべきなのだろう。

でも無理だ。
知ってしまったから。

「葉は、私なんかいない方がいいかもしれないけれど、私はもう、葉がいないと生きていけない」

葉を育てる。
葉と一緒に生きる。
それが……私をこの世に留めてくれた。
ギリギリのところで、死を選ばずに済んだから。

「だから、私は、葉がいないとダメなんです」

私がそう言った時だった。

「ハハハ」

と、悠木先生の笑いが響いた。
私なんかの戯言なんか、どうでも良いと言いたげな笑い。
この笑いは、あの男と同じだと思った。
自分の考えだけが崇高だと考え、他者の意見などシャットアウトすると宣言するような高笑い。

その考えは当たってしまっていた。

「君がこの世に生きる理由とかはどうでも良い。ただ、私が欲しいのは彼女のための器だけだからな」

悠木先生はそう言うと、1冊のノートを渡してきた。
見覚えのある、癖が強い文字。
凪波のものだとすぐに分かった。
一緒に遊びでBL小説を書いてた頃、毎日のようにその字を見ていたから。